昨年10月に発売された『できる大人のモノの言い方大全』(青春出版社)が70万部を超えるベストセラーになっている。これは、現代社会を生き抜く上で、言葉がいかに重要かを認識している人が多いことの証左であろう。
テレビ、ラジオ、雑誌といったフィールドで、言葉を武器に活躍する、えのきどいちろう氏(53、本文中=え)、松尾貴史氏(52、同=松)、深川峻太郎氏(49、同=深)の3人は、「モノの言い方」についてどのように考え、感じているのか。思い思いに語り合ってもらった。
松:大阪に、ざる蕎麦のつゆにウズラの卵を入れて出す店があるんです。「ウズラ蕎麦」というんだけど、それを注文すると「ウズラが入ってますけど、よろしいですか」って必ず聞くの。うぐいすパンに鶯が入っていたら文句つけますけど、そこまでクレームを気にしなくてもいいじゃないですか。コンビニでお酒を買う客に成人のボタンを押させるのと同じで、本質は責任回避ですよ。
深:ひたすら言質を取られまいとする官僚の作文みたいな感じですね。
松:日本では企業でトップに立つのもミスをしなかった人ですもんね。この減点主義が、日本の弱点ですよ。
え:今は「ありがとう」も言いすぎるし、スポンサー様、患者様、新郎様、新婦様って何でも「様」をつけるのも気持ち悪い。あの過剰に丁寧でへいこらする感じに、日本は不景気なんだなって改めて思う。
深:上司にコピーなどの雑用を頼まれて「ありがとうございます」と感謝する人がいるらしいけど、ありがとうがインフレを起こしているんですかね。
松:僕は以前「何名様」が気になって、調べてみたら、「名」は公的文書に人数を書く時の改まった言い方ではあるけど、数えられた人への敬意はないんですね。
つまり「何名様でいらっしゃいますか」は間違いで、事件や事故で「犠牲者は何名」と言う時も何人でいい。むしろ名じゃ失礼なんです。相手を敬っているわけではなく、私は改まった言い方をしていますという、責任回避というか、放棄に近い。
え:子供のころに法事か何かに行って退屈していたら、「おいチビ。ここは適当にやるから、遊んでこい」と言ってくれた親戚がいてね。まあ、もともと適当な感じもあるおじさんなんだけど、「あとは俺が適当にやっとく、任せろ」と言える大人になりたいと思ったな。
松:フレキシブルだなぁ。
え:一方で企業がコンプライアンスと言いだしたり、一般人がネットで叩かれたりする時代だから、恐怖感はあるんだよ。でも一番の防御はフレキシビリティや状況判断で、鎧じゃない。
※週刊ポスト2013年3月22日号