「宝くじが当れば建て直すんだけど(笑い)」とママちゃんと慕われる伊藤静江さん(71)
軒先の真ん中あたりに、店の名前の由来となった赤提灯が、柔らかな灯りをともして風に揺れている。その右側、建物の古さに反比例するような軽さで開けられるサッシ戸の向こうに、10人ほどで動きがとれなくなる、“気持ちのいい雑然”という言葉がぴったりの角打ち空間がある。
カウンターは入って左側。手前から奥へ一直線。そこに立つ客の背中側の壁全面に、有名無名演歌歌手のサインが溢れる。「毎月21日が、大師様の縁日でね。キャンペーンで唄いに来た歌手がここに寄ってくれるんです。みんなそのときの記念なのよ」とママ。
その壁に張り付くように、ビールケースが長いすのように並べられている。
「荷物台のはずが、座るよというお客がでてきてねえ。かわいそうだから座布団置いてます」(ママ)
そうすると、通路がふさがってしまい、奥が空いていても行けなくなってしまうのだが、
「立ってるやつは背筋を伸ばすし、座ってるやつは足を縮める。それで隙間ができるから、背中をかがめて通れば、問題ないんだ。みんな気持ちよくそうしてるよ」(50代職人)
と、みんなの意見がここでもまた一致した。