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吉野家 「うまい」支えた往時の牛丼管理技術を取り戻せるか

 牛丼の吉野家が、4月に価格をライバル店と同じレベルに引き下げた。牛丼戦争再び。そこで気になるのが味はどうなるのか。熱烈な吉野家ファンを代表して、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が語る。

 * * *
 チェーンの牛丼といえば吉野家である。僕にとって他の選択肢はない。その吉野家がこの4月、牛丼の価格を引き下げ、これまで380円だった並盛の価格を、ライバルの松屋やすき家と横並びの280円とした。吉野家の牛丼(並)がこの価格帯になるのは、同じく280円だった2004年2月以来のこと。吉野家は「うまい、安い、早いを取り戻す」と意気盛んだが、この10年間、興味深い展開を次々に繰り出してきたことを考えると、まだまだ予断を許さない。

 というのも、吉野家は、他の牛丼チェーンと異なり、牛丼一本で勝負をしてきた。だからこそ、2004年に米国産牛バラ肉──ショートプレートの確保ができなくなると、新メニュー開発が急務となった。そうして一部の心ないファンから「迷走」と言われるような多彩なメニューが登場した。豚丼、カレー丼、つくね丼、麻婆丼、豚キムチ丼……細かいバリエーション違いの丼も含め、数多くの丼が吉野家の品書きを彩るようになった。

 当時のアルバイトスタッフに話を聞くと、「この頃から、スタッフの技術が落ちてきた」という。

「吉野家のアドバンテージは、何より牛丼の味でした。少なくとも2000年頃までは、どの店舗でも具、タレをていねいに管理し、他チェーンではまず見ない『横抜き』と言われる盛りつけの技術が伝承され、タレのアクをすくう『脂抜き』などの大切さも口を酸っぱくして教えられていました。それが2004年以降、場当たり的にメニューを投入しては入れ替えた結果、肝心の牛丼を管理する技術が落ちてしまったような気がします」(元アルバイトスタッフ)

 以前から熱心なファンは「☓☓店の吉野家が旨い!」「いや、いまは△△店だ!」と格付けで盛り上がっていた。それは都市伝説ではない。牛丼に徹した品質管理があったからこそ、かえって店舗ごとにバラツキが出てしまっていたというのだ。もちろん一定のレベルはクリアした上で。

 しかし登場しては消える新メニューの数々に、スタッフの抱えるタスクは増えた。チェーンとしても、長年かけて築いた「牛丼」を失い、さぞかし苦心惨憺のメニュー開発が続いたことだろう。2006年にようやく牛丼が復活したものの、原料となる牛肉が変わったこともあり、ネット上では「吉野家の味が落ちた?」という書き込みも見られるようになった。“牛丼空白期“に入店したスタッフ教育も並大抵のことではなかったはずだ。

 だが、吉野家にとって「牛丼」の味は生命線のはず。他の牛丼チェーンはともかく、吉野家の牛丼はうまくなければならない。それこそが吉野家のアイデンティティである。

 今回の値下げの背景は2月の米国産牛の輸入規制緩和だった。これによって、月齢が20~30か月の米国産牛のショートプレートという、吉野家が求める牛肉が手に入るようになった。だが果たして、本当に「うまい」は取り戻せるのか。吉野家は値下げの理由を「牛肉の仕入れによるものだけではない」という。もちろん380円→280円という大幅な値下げは、ひとつの食材だけでなし得るものではない。ならば、味はどうか。価格同様、牛丼の味にしても牛肉だけによるものではないはずだ。

 1970年代、吉野家のCMには「ここは吉野家、味の吉野家、牛丼一筋、80年~♪」というCMソングが流れていた。そう、肝心なのは「牛丼の味」なのだ。今回を機にぜひ「味の吉野家」の復活に期待したい。ところで、この10年間に登場した丼のなかで圧倒的な名作であり、本筋の牛丼にもっとも近かった「牛鍋丼」をこのタイミングで捨てるとはどういうことか。これだけは一刻も早く撤回していただきたい。

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