ビジネス

ローソン新浪剛史氏はなぜ社長からCEOに肩書きを変えたのか

 文字通り会社の長である「社長」の肩書きは、いまさら必要ないのか――。

 5月21日にコンビニ大手のローソンが、組織変更で社長・副社長ポストの廃止を決めた。これまで「代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)」だった新浪剛史氏の肩書きから社長の名前が消え、CEO職のみとなった。一体どんな意図があるのか。経済誌『月刊BOSS』編集長の河野圭祐氏が話す。

「新浪さんは2002年に43歳という若さで三菱商事からローソンの社長に転身。社長歴11年の間にワンマン体制を確立し、組織や人事も含めて経営すべての権限を握っています。ただ、最近は業界内から『半分政治家になったのでは?』と揶揄されるほど、政府の産業競争力会議はじめ公職に時間を取られています。そこで、自分は経営全般を監督し、“留守中”の日常業務は執行役員に任せるという体制を敷いたのでしょう」

 ローソンの発表でも「経営と執行の分離を明確化し、執行のスピードを上げる」との目的で、これまで新浪氏の右腕だった玉塚元一氏と、新たに三菱商事出身の矢作祥之氏が「代表執行役員」となるCOO(最高執行責任者)、CCO(リスク管理の責任者)にそれぞれ選出された。

 そもそもCEO、COOなどの肩書きは欧米型の企業統治システムに倣ったもので、1997年にソニーがはじめて導入して以降、トヨタ自動車や日産自動車、オリックス、ダイエーなど名だたる企業でも採用されてきた。

 一般的にはCEOが会長、COOが社長の役割を担っているとされるが、社長がCEOを兼ねているケースもあり、統一したルールはない。商法上は執行役に権限移譲が認められているものの、トップ同士の役割分担や経営責任の所在が曖昧な企業が多いのも現実なのだ。

「ウチの会社は執行役員制もとっていないのに、一線を退いたはずの会長がCEOの肩書きを名乗って院政を敷いている。結局、横文字を使って権力を誇示したままなんです」

 とある中小企業の幹部がこう嘆くように、肩書きが形骸化している風潮は否めない。

 経営危機に瀕するシャープも、2008年に執行役員制度を導入した1社。しかし、当時の町田勝彦会長と片山幹雄社長がCEOとCOOの役職に分かれてもお互い経営の意思決定をしてきたため、反りが合わず2年後に廃止。その後も両者は相談役、会長として取締役会に影響力を持ち続けたのは有名な話だ。

 日本の経営史に詳しい一橋大学大学院商学研究科教授の橘川武郎氏は、こう警鐘を鳴らす。

「経営学の金言の中に、『組織は戦略に従う』という言葉があります。いくら組織をいじってポストの呼び名を変えようとも、いい戦略が取れなければ何の意味もありません。組織をどうやって作るかの『HOW』ではなく、何の戦略を練るかの『WHAT』を明確にするほうが先決なのです」

 経営コンサルタントの小宮一慶氏も著書『こんな時代に会社を伸ばすたった一つの法則』(海竜社刊)の中で、こんなことを書いている。

<「社長」という肩書きは、単なる役割です。人間が偉いから社長なのではありません。経理や営業の仕事があるように、社長という仕事がある。経理や営業と何が違うのかといえば、社長のほうが課せられている責任が重い。だから、他の人よりも給料が高い。ただ、それだけの違いです>

 6月の株主総会後にトップ交代を行う企業は多い。果たして、戦略ありきで肩書きにとらわれない経営者がどれほど誕生するだろうか。

関連記事

トピックス

役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン