芸能

近藤正臣 名古屋章に「カーブばかりでは打たれる」と言われた

 何を演じても独特の印象を与える俳優・近藤正臣。特に歴史上の人物を演じるときに、鮮烈な印象を与える近藤が、かつて共演した小林桂樹さんとの思い出を入り口に、みずからの芝居の特徴について語る様子を、時代劇研究家の春日太一氏が綴る。

 * * *
 近藤正臣は歴史上の人物を数多く演じている。中でも、筆者に鮮烈な印象を与えてくれたのが、2001年のNHK時代劇『山田風太郎からくり事件帖』で演じた川路利良・大警視正だ。本作では西南戦争前夜の東京を舞台に、小林桂樹扮する最後の江戸町奉行と最初の警視総監・川路との虚々実々の頭脳戦が描かれている。昔堅気で武骨な小林とキザで嫌味な近藤という対極的な芝居のぶつかり合いが楽しかった。

「小林さんは大好きな役者さんなんです。芝居が柔らかいんですよね。俺なんかはどっちかというと、芝居で変化球を投げたがる。でも、小林さんはキャッチボールのような球をお投げになるんです。だから、つい受け損なってしまう。ビュンと来るかと思ったらフワっと来るから、こっちは『おっとっとっ』って。それだけに、あの作品は面白かったと同時にしんどかった。

『柔道一直線』でご一緒して、その後もテレビドラマで何度もやらせてもらった名古屋章さんには『近藤君ね、君は面白いけれども、カーブだけ投げていたら打たれるぞ』って言われたことがあります。それで時々は直球も意識してみるんですが、それでも打たれる。結局は、『どうせ打たれるなら、カーブを極めよう』と思うようになりました。

 小林さんのように、キャッチボールしているみたいな自然な芝居ができた方がいいのかもしれません。でも、俺は安心できる立場に一度も立ったことがないから、ギラギラしていたんですな。だから、小林さんみたいなボールはでけへん。

 若い頃から十年近くエキストラばかりしてきたものですから、少し売れたとしても『役者は喰えない』というのが掟みたいになっていて。ちょっとやそっと騒がれたところで、『これで喰えるもんじゃねえ』という意識はずっとあります」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。

※週刊ポスト2013年6月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン