芸能

俳優間の“演技の間”について中村敦夫氏「サッカーに近い」

『木枯し紋次郎』で一斉を風靡した中村敦夫氏、8月30日から9月1日まで朗読劇『山頭火物語』の公演を予定している。俳優以外にもキャスターや参院選への出馬など、精力的に活動を続けてきた中村敦夫の演技観について、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が綴る

 * * *
 中村敦夫は俳優としてはもちろん、情報番組キャスター、政治家、作家、脚本家と多岐にわたって活躍してきた。中でも、これまで時代劇、ミステリー、コメディと幅広く執筆している脚本の重要性を、今回のインタビューで強調した。

「演劇や映画の世界で自在に人間を操ることができるのは、シナリオライターだけです。監督だって、脚本を基に人間を動かしているだけですから。それから、どんな名優でも脚本が酷かったら惨敗です。同じ人かと思うくらい、見る影がなくなってしまう。

 ですから、俳優にも脚本を理解する能力は必要なんです。脚本に足りないと思うところは自分で補う。でも、やりすぎてはダメです。自分が目立つために脚本にイチャモンをつける俳優は三流ですよ。

 僕は演出も脚本もやってきたから、自分の演じる役の全体での役割をまず考えます。そこを勘違いして自分のことしか考えない演技をすると、その作品自体が壊れてしまいますから」

 中村敦夫は一俳優としてだけではない、大局的な視野から現場に臨んできた。そんな中村のスタンスが発揮されたのが、1976年のテレビドラマ『スパイ・ゾルゲ』(日本テレビ)での三國連太郎との二人芝居だった。本作では三國は実在のドイツ人スパイを、中村はそれを追いつめる検事を演じ、両者は取調室で緊迫の演技合戦を繰り広げている。

「あの人は、もう徹底的に化け切る。『ゾルゲ』の時は、『三國さんは撮影の数週間前からドイツ料理しか食べていない』という話が飛び込んできました。現場でも髪を染めて青いコンタクトレンズを入れて、『グーテンモルゲン』と言いながら入ってくる。そんな『憑依型俳優』を相手にどう太刀打ちするかを、こちらは考えなきゃならない。何も考えなかったら向こうにやられっ放しで『あいつは芝居のできん奴だ』と言われますから。

 そこで僕は『全く演技しない』という対応をしました。相手は徹底して準備をして作り込んでくる。それなら、こっちは身ぶり手ぶりもしない。声も荒らげない。黙って相手の目を見ているだけ。後は三國さんのやりたいようにやらせる。

 すると、三國さんも気づいて、芝居を段々と調整してお互いちょうどいいところに落ち着くんです。こういうのは、どっちが勝っても負けてもいけない。一流のテニス大会の決勝に立っているような楽しさがありました。

 芝居って、台詞を覚えてきてそれをキッチリ言うだけではありきたりのものになってしまう。相手役との駆け引きの中に微妙な間があって、それを咄嗟に埋めていく。演技の勝負所はそこにあります。優れた俳優は自分で間を作って相手に投げかけたり、相手が作った間をすぐに受け止めたりすることができる。

 ですから、キャッチボールというよりサッカーに近い。単に同じ所に投げるんじゃなくて、直線でボールが来ることも、フワッと来ることもある。それにどう足を合わせるか。ノーバウンドで蹴り込む場合もあるし、ドリブルに持ち込む場合もある。大事なのは、その判断なんです」

※週刊ポスト2013年8月2日号

関連キーワード

トピックス

今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・イメージ 写真はいずれも当該の店舗、販売されている味噌汁ではありません)
《「すき家」ネズミ混入味噌汁その後》「また同じようなトラブルが起きるのでは…」と現役クルーが懸念する理由 広報担当者は「売上は前年を上回る水準で推移」と回答
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン