高温多湿の日本の夏は、思わぬものでアレルギーが起こる。近年報告されているのが、お好み焼きやホットケーキを食べた後で起こるアナフィラキシー(急性の重度のアレルギー症状)。食後、鼻炎や蕁麻疹(じんましん)や呼吸困難、ひどい時は意識障害を起こし救急搬送されることもある。原因はお好み焼き粉を開封後、常温保存したために増殖したダニ。ぜんそくや鼻炎を持つ人は注意が必要だ。
これは1993年にアメリカで初めて報告され、パンケーキシンドロームと称されているもので、日本では1995年に熊本大学で報告された。千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科の中島裕史教授に話を聞いた。
「日本でパンケーキシンドロームは36例報告されていますが、90%以上がお好み焼き粉によるものです。お好み焼きを食べた後のアナフィラキシーで、原因不明とされた中には、お好み焼き粉内で増えたダニが原因のものもかなり含まれていると思われます」
お好み焼きでアナフィラキシーを起こし救急搬送された場合、担当医師はまず小麦アレルギーを疑う。さらにお好み焼きの具の海老や豚肉、お好み焼き粉に入っている山芋や魚介のエキスもアレルギーの原因になる可能性があり調べるが、食べたお好み焼きの粉まで検査することは少ない。
お好み焼き粉で主に増殖するのは、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、ケナガコナダニの3種類で、アレルゲン性はかなり似ている。ダニは温度25~30℃、湿度60~80%で活発に増殖し、エサが良いとさらに増える。
お好み焼き粉には山芋や魚介由来のアミノ酸などダニの好物が含まれ、絶好の環境だ。高温多湿であれば、ヒョウヒダニが卵から成虫になるのに20日、卵は1回1~3個なので10週間で300倍以上に増える。コナダニはもっと早く増える。ダニの大きさは0.2~0.4ミリメートルと小さく、増えても目には見えず味も変わらない。
「粉1グラムあたり500匹以上のダニを含むお好み焼きを食べると、リスクが高まるといわれます。また、ダニは加熱により死滅しますが、ダニ・アレルゲンは加熱しても、ほとんど壊れないのでリスクは減りません」(中島教授)
診断は、古い粉から作った食品を食べた直後にアナフィラキシー症状を起こしたか、ぜんそくや鼻炎の既往(きおう)があるか、ダニ特異的IgE抗体が陽性か、粉が残っている場合、粉中にダニがいるかなどで行なう。
ダニを増殖させないポイントは、お好み焼き粉を開封して残ったら、必ず密閉容器にいれて冷蔵保存する。ダニは極小でどんな隙間からでも入り込むため、2~3か月常温保存した粉は捨てる。ダニは乾燥に弱いが、マンションなど現代の住環境は1年を通して湿度が高い状況にあり、ダニ増殖の危険性が高くなっているので注意が必要だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2013年8月16・23日号