昨年、惜しまれつつ休刊した『野球小僧』(白夜書房)の名物企画「俺に訊くな!」。リスペクトを込めて、復活させて頂いたこの企画のために、福本豊氏(65)にホームランの打ち方を聞きに行った。
福本氏といえば“世界の盗塁王”である。通算盗塁数1065は他の追随を許さない。そんな福本氏に本塁打の打ち方を尋ねたところ、「なんやて本塁打の打ち方? そんなん簡単やん。来た球をコーンと打ったらええねん」。
その打ち方をお伺いしたいのですが……。
「簡単、簡単、盗塁より簡単。盗塁は牽制が上手い投手や癖の見抜けない投手もおる。でも本塁打は前から来る球を打ったらええんや」
福本氏が「簡単」と連呼するにはワケがある。実は福本氏は、身長168cm、68kgと小柄にもかかわらず208本の本塁打を放っている。さらに先頭打者本塁打43本は日本記録なのだ。
「何も200メートルも飛ばせいうんやないんや。自分のポイントで捕らえたら、フェンスぐらい誰でも超える」
福本氏にも転換点があった。阪急入団当初、福本氏は俊敏さや小技をきかす選手を目指した。が、小さくまとまろうとする福本氏をみた監督の西本幸雄氏から、「小さくても自分のツボにきた球を本塁打にできないなら使わないぞ」と面罵された。それを機に福本氏はスイング改造に取り組んだ。
「西本さんからは、『思い切り振ってもふらつかないスイングを目指せ』と繰り返し言われたんです。上体だけで打っても飛ばへん。上と下がビシッとみ合わないとね。この基本となるのが(右打者の両足をホームベース側から見て)『入』の字ではなく『人』という字で打て、というものでした」
“人”は体重が両足に均等にかかっているフォームを指す。一方の“入”は、「打者の懐にきたボールに対応できず、踏み込みが遅れた」足捌きを表わしている。
福本氏が改造したのはフォームだけではない。福本氏は現役時代、“すりこぎバット”と呼ばれた1キロ超の短くて重いバットを使っていた。短いほうがヘッドは抜けやすいし、球の勢いに負けない、という理由からだ。
「最近の子は880グラムぐらいの軽いバットを使いたがる。手元で落ちる球や小さな変化の球なんかに対応したいらしいけど、バットを軽くするより下半身をしっかり使う訓練をした方がいい。下半身が安定していれば変化球にも対応できるよ」
パワーなんかいらん、と福本氏は繰り返す。締めくくりはこんな言葉だった。
「今は球が飛ぶらしいからね。俺も打ってみたいわ」
※週刊ポスト2013年8月16・23日号