世界にとどろく記録をもつような一芸に秀でたプロ野球選手に、得意分野とは真逆の質問を投げ掛ける野球雑誌『野球小僧』(白夜書房)の名物企画「俺に訊くな!」。残念ながら、『野球小僧』は昨年休刊してしまったが、ここにリスペクトを込めて企画を復活させて頂き、未だに現役時に劣らぬピッチングを少年野球の指導で披露している村田兆治氏(63)に「中継ぎの醍醐味」を聞いた。
サインには、頼まれれば“人生先発完投”と添える。
マサカリ投法で知られる村田氏は、433試合の先発マウンドに立ち、そのうち184試合で完投を果たした。そんな先発完投に拘り抜いた男に「中継ぎの醍醐味」を訊ねると意外にも「先発と中継ぎ、基本的なものは何も変わらない」との答えだった。
村田氏は笑みを浮かべながら続ける。
「最多勝と最多セーブを取っている選手はボクしかいないんじゃないかな。君たち知らなかったでしょう」
村田氏は1981年に19勝8敗で最多勝に輝いているが、実はプロ8年目の1975年に13セーブで最多セーブのタイトルを獲得していた。
「13セーブといっても、9勝12敗という成績。先発、リリーフ、両方こなしたんですよ。ダブルヘッダーで1試合目に先発をして、2試合目にリリーフなんてこともあったからね」
まだ先発とリリーフの分業制が整っていない時代──リリーフの頭数がいないため、試合展開によっては先発が急遽リリーフに回されることも珍しくない。
「ボクはベンチからの指令はすべて受け入れていました。当時、中継ぎは先発より1ランク下とみられていたけど、そんなの関係ない。私は中継ぎを任せられていた時期だって先発投手と同じ走り込みを積み、先発に戻ってもスタミナが切れないように心掛けていました」
選手を選ぶのはあくまでベンチです、と村田氏は強調する。そんな思いもあり、引退後のコーチ時代、村田氏は中継ぎ投手に敗戦処理の重要性を説いたという。
「普通、敗戦処理というとリリーフは嫌がる。でも常に勝っているゲームだと思って投げないといけない、と私は説いた。そういうところで頑張るか否かをベンチは見ています。私も1年目は敗戦処理をこなしてアピールしていたんです」
では、その醍醐味とは?
「チームの勝利のために自分が貢献できることです。しいて言えば、そこに幸せを感じられる選手になってほしいですね。これは先発、中継ぎにかかわらず、です」
その言葉は重く、深かった。
※週刊ポスト2013年8月16・23日号