ライフ

偏差値教育批判の大前研一氏 一日500本ネットニュース読む

 ポテンシャルが本来は高かった日本人が落ちぶれた理由は「偏差値(学力偏差値)」にある──そう語るのは大前研一氏だ。日本が再び元気になるためには、偏差値教育をやめて北欧のような21世紀型の教育に移行すべきだと大前研一氏は主張する。以下、同氏の解説だ。

 * * *
 偏差値がもたらす大きな問題は二つある。一つは上からレベルを規定されてしまうことによって、自分の分際、分限、身のほどを自分で決めてしまい、蛮勇に近いアンビションや気概がなくなってしまうこと。つまり、何事も予定調和でやろうとするから、大胆なチャレンジをしなくなるのだ。

 もう一つは、そこそこ高い偏差値を取ると、その後、努力しなくなることだ。中学・高校という人生の極めて限られた時点で取った数値なのに、自分は優秀だと思い込んでしまい、そこから先は勉強しなくなる人が非常に多いのである。

 その点、自分の偏差値を知らない私は古希を過ぎた現在でも、明日には能力が落ちるかもしれないという危機感を持ち、1日500本、1週間3500本のニュースを読み、国内外の雑誌や書籍で勉強し、常に新しい情報や知識をインプットしながら、いま世界で何が起きているのかを分析し続けている。世の中がこれほど急速に激しく変化している時代に、大学を出たらもう勉強しないというのは、実に恐ろしいことである。

 いま日本の企業で起きている「うつ・無気力」「疲弊・燃え尽き」「あきらめ」といったメンタルな問題も、偏差値教育の弊害だと思う。

 偏差値が高かった人は「疲弊・燃え尽き」タイプになりやすい。彼らは実務では往々にしてワーカホリックで、リストラ対象にもならずに生き残ったものの、仕事が2倍、3倍に増えただけで出世もしないし給料も増えないという状況の中で、疲れ果てて燃え尽きる。

 偏差値が低かった人は、そこまで仕事を頑張らず、適当にこなそうとするから、すぐに「あきらめる」。偏差値が真ん中ぐらいの人はその中間で、上司から怒られたり認められなかったりして「うつ」や「無気力」に陥りやすいのである。

 とにかく、日本人がかつての蛮勇、アンビション、気概を取り戻して日本が再び元気になるためには、今すぐ偏差値教育をやめるべきだ。そして、北欧のような21世紀型の教育に移行すべきである。

 先生は「ティーチャー(教師)」ではなく「ファシリテーター(能力を引き出す伴走者)」「メンター(助言者)」として、集団教育ではなく個人教育的な要素を増やす。そうやって優秀な人材を発掘し、個別にインストラクターやカウンセラーをつけて、その児童・生徒が持っている最も将来有望な能力を伸ばしていくのである。

 そのやり方は、日本人が活躍する音楽やスポーツの世界のやり方と変わらない。21世紀には学問の世界でも、目線を高く持って個別指導していく方法しかないのだ。

※週刊ポスト2013年9月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
このほど発表された新型ロマンスカーは前面展望を採用した車両デザイン
小田急が発表した新型は「白いロマンスカー」後継だというけれど…展望車復活は確定だが台車と「走る喫茶室」はどうなる?
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン