「マヨラー」と呼ばれる人が食べ物に大量にマヨネーズをかけ、「マイ七味」を持ち歩いては大量に書ける大人がいる。だが、食品ジャーナリストの安部司氏は子供たちにもその流れが広がっているという。子供の味覚について、次のように警鐘を鳴らす。
「今の子供たちは食材そのものが持っている淡白な味を感じることができず、極端に濃い味付けをしないと満足しなくなっています。これまで、ご飯が見えなくなるほど大量にマヨネーズをかけたり、真っ赤になるまで七味唐辛子を振りかけたり、醤油やソース浸しにしたりといった子供たちの奇異な行為が話題になりましたが、もはやそうした食べ方は珍しくなくなっています」(安倍氏)
確かに子供たちの異常な食行動はエスカレートしているようだ。安倍氏はこう続ける。
「たとえば即席ラーメンを袋ごと潰してジャンクフード風に食べるのが流行っています。子供はその方がおいしいと言うのです。またある中学生は砂糖を直接マーガリンに溶かし込んで食べるとハマると話していました。
インスタント焼きそばのお湯を残し、そのままソースをかけてラーメン風に食べる子もいます。子供たちの間では塩分や油脂や砂糖が入れば入るほどおいしくなるということのようです」
なぜ子供たちは「普通の食事」ができなくなってしまったのか。30年以上にわたり、子供の食生態調査・研究を行なってきた足立己幸・女子栄養大学名誉教授は言う。
「家に親や兄弟がいても一人で食べる『孤食』や、家族各々が好きなものを食べる『個食』、自分の好きなものしか食べない『固食』が増えています。そうした傾向を助長しているのが、コンビニやスーパーで好きな食品や料理を一人分の小口で買うことができる環境です。いろいろな種類の味をゆっくり味わい分けて食べるチャンスが少なくなっているのです」
また、自分の好きなものばかり食べていると体内の味覚に関わる機能が発達しにくくなると心配されている。たとえば舌や口の中にある味を感じる器官である味蕾が機能しにくい状態のままになる。足立氏はこう言う。
「味蕾等感覚器官は使うことによってスイッチが入り、発達していくといわれています。偏った食物しか食べないと偏った部分だけにスイッチが入り、偏った味わい方しかできなくなってしまう」
今後、子供たちの味覚はどうなっていくのか。
「私が30年前に調査を始めた時、すでに朝夕食ともに好きなものしか食べない子供がいました。そんな彼らももう親世代です。偏った食事で子供を育てているかもしれません」(足立氏)
味覚の退化は“遺伝”し、いずれ食文化そのものを崩壊させかねない。
※SAPIO2013年9月号