ビジネス

ユニクロ軸にカシミヤ戦争 中国の景気停滞で安定調達可能に

 次第に秋が深まり、朝晩はめっきり冷え込む日が多くなった。暖かい上着が手放せないシーズンの到来で、「繊維の宝石」と呼ばれるカシミヤ商品が売れている。

 例年より1か月前倒しでPB(自主企画品)のカシミヤニットを販売する西武池袋本店では、セーターやカーディガンなどが1万円弱のものから2万円台半ばまでと、比較的リーズナブルな価格帯に設定。発売から3週間で、前年同期比8倍以上を売り上げたという。

 高級素材として定着しているカシミヤだが、なにも百貨店だけの専売特許とは限らない。「無印良品」を展開する良品計画は、約10年ぶりにカシミヤ製品を全店で取り扱い、カシミヤ100%の婦人用セーターは7980円と1万円を切る価格を実現させた。

 その他、「イトーヨーカ堂」や「イオン」など総合スーパーなどでも、マフラーや手袋などの小物から衣服まで、高品質のカシミヤ商品を秋冬衣料の目玉として続々と投入している。

 各社とも堰を切ったようにカシミヤ商品を安価で供給できているのには理由がある。繊維業界関係者が話す。

「カシミヤの原毛は主に内モンゴルなど中国からの輸入に頼っていたのですが、ここ10年ほど価格が高騰して仕入れ量が確保できなかった。それが中国の国内消費が冷え込み、現地の原料商社が高値で買い占められなくなったことで、安定的に調達できるようになったのです」

 もちろん、アベノミクス効果で高額商品が売れている日本において、カシミヤはまさに消費不況を吹き飛ばす格好の材料となる。「今年は薄手のセーターがトレンドだが、数万円する厚手のセーターの売れ行きも期待がもてる」(百貨店バイヤー)

 そんな中、ひと際注目されているのが「ユニクロ」だ。10年ほど前から1万円以下の商品を扱ってきたが、今年は4年ぶりにカシミヤ100%のセーターを全店に投入。Vネックのニットは婦人向けで5990円、紳士向けでも7990円の安さである。カシミヤ関連だけで590万枚の販売目標を掲げるなど、鼻息も荒い。

 国内証券アナリストが、最近のユニクロの経営事情について解説する。

「海外への積極的な出店で、2014年8月期決算で連結売上高が1兆円を超えるとの見方がある一方、国内は客単価の減少など採算が悪化している。肌着やフリースなど低価格の定番商品とあわせ、カシミヤなどユニクロ内では高価格帯の商品を徐々に増やして値引きせずに売れるかが、今後の収益力改善のカギになる」

 ユニクロの経営陣は否定しているが、緩やかな脱・低価格路線、客単価のアップが課題というわけだ。仮にそうであれば、カシミヤの売れ行きはその方向性をも左右する。

 だが、繊維業界に精通するファッションジャーナリストの南充浩氏は疑問も投げかける。

「高級・中級アイテムを低価格で販売する手法はユニクロの王道。カシミヤも同じやり方と言えますが、かつて7000円~8000円はしていたフリースジャケットを1900円にしたり、ダウンジャケットを他社商品の3分の1ほどで売ったりしたほどの価格インパクトはありません。常勝パターンの取り組みとしては面白いと思いますが……」

 さらに、南氏は高級素材を使うがゆえの難点も指摘する。

「カシミヤ製品は洗濯機で洗うと縮んだり、保管環境が悪ければ虫食いで穴が開いたりと手入れが大変。カシミヤとともに投入しているシルク商品は、日焼けや黄ばみなどにも気をつけなければなりません。これまでユニクロのイージーケア商品に慣れてきた顧客層が、いくら低価格とはいえ、果たして手入れが面倒くさい商品をどれだけ欲しがるのか興味深いところです」

 さて、今年の“カシミヤ戦争”。消費者の身体だけでなく、どの流通ブランド商品がもっとも懐を暖めるのだろうか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

女優・遠野なぎこ(45)の自宅マンションで身元不明の遺体が見つかってから2週間が経とうとしている(Instagram/ブログより)
《遠野なぎこ宅で遺体発見》“特殊清掃のリアル”を専門家が明かす 自宅はエアコンがついておらず、昼間は40℃近くに…「熱中症で死亡した場合は大変です」
NEWSポストセブン
俳優やMCなど幅広い活躍をみせる松下奈緒
《相葉雅紀がトイレに入っていたら“ゴンゴンゴン”…》松下奈緒、共演者たちが明かした意外な素顔 MC、俳優として幅広い活躍ぶり、174cmの高身長も“強み”に
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン