ビジネス

消費増税 企業は値引きで体力すり減らす消耗戦に突入と識者

 来年4月からの消費税3%アップもまだ実施されていないうちから、麻生副総理・財務相は来年末までに8%から10%に引き上げるかどうかを判断すべきと明言した。

 2段階増税は既定路線だったとはいえ、度重なる増税で景気悪化を懸念する声は根強い。

 特に小売りや外食業などは、消費者の“買い控え”に強い危機感を抱く。大手食品スーパー幹部は、「まずは来年4月の時点でどれだけ売り上げの減少を抑えられるかが勝負」と、消費意欲の減退を最小限に食い止めるための思案を巡らせている。

 そのひとつが価格表示である。

<税抜き価格>を目立たせれば消費者に値上がり感を持たれなくて済むが、レジの支払い金額で混乱を招きかねない。また、<税込み価格>のみですっきり明朗会計にすれば、客単価の落ち込みや便乗値上げを疑われる恐れすらある。

 現状で価格表示の方式は、日本チェーンストア協会や日本スーパーマーケット協会のように、「本体価格(税抜き)表示が基本」と定める業界団体が多数を占める。商品自体の値段は変わっていないことを強調するためだ。

 一方、日本百貨店協会などは「総額表示に加えて本体価格のみの表示を併用する」方針を示している。つまり、値札には「税込1080円(本体価格1000円)」と記載される。

 このほうが消費者にとっては親切な表示にみえるため、国も総額表示を勧めているが、当面は企業の負担も考慮されて、2017年3月末までさまざまな表示方法が特例で認められている。税理士の落合孝裕氏が解説する。

「スーパーなど商品の品目が多い店は、値段の付け替えだけでコストも時間もかかってしまいます。来年3月31日は早めに閉店しないと間に合いませんしね。その点、税抜き表示なら値段の付け替えは不要ですし、店の入り口に<店内すべて税抜価格です。消費税分はレジにて請求させていただきます>と貼り紙を出せばいいだけです」

 しかし、価格表示の見せ方だけでいつまでも消費者心理を誘導させることは難しい。消費の落ち込み具合が各社の想定を超えれば、バーゲンセールで急場を凌ぐしかないだろう。そこで、「消費税は転嫁しません」「消費税は当店が負担します」「消費税分はポイントで付与します」といった宣伝文句はタブーとなる。

「これらの文言は『消費税還元セール禁止法案』に抵触し、違反行為を犯せば公正取引委員会から勧告処分が下されたり、他店への見せしめのために社名を公表されたりしてしまうでしょう。

 でも、抜け道はたくさんあります。『春の新生活応援セール』や『3%値下げ・還元・ポイント付与』、『8%値下げセール・ポイント進呈』などは禁止されていません。それは、消費税との関連がはっきりせず、たまたま引き上げ幅や税率と一致するだけ――との判断からです」(前出の落合税理士)

 消費税が上がったからという理由さえつけなければ、なんでもありのセールが横行するというわけだ。消費者にしてみれば1円でも安く商品が購入できるのはありがたい話だが、企業は値引きによる体力の消耗戦が続くことになる。

「例えば6000円前後の商品を来年4月以降も同額にするセールを行ったとします。粗利率が30%程度だとすると、増税分の収支をトントンにするには10%近く売り上げを増やさなければなりません。あまりに長期的なセールは会社の資金繰りを一気に悪化させてしまうのです」(落合氏)

 2015年秋の10%引き上げまで続く消費増税のドタバタ劇。デフレ不況から抜け出せず、中小企業の増税破綻などを招いてしまえば、アベノミクスはますます成長軌道に乗れなくなるのではないか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン