【書評】『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』宮田律/新潮新書/756円
【評者】青木均(愛知学院大学教授・流通論)
2020年のオリンピック招致において、東京の強力なライバルだった、トルコのイスタンブール。イスタンブールはイスラム圏初のオリンピック開催地を目指していましたが力及ばず、開催地が東京に決まったのは記憶に新しいところです。
その決定直後、トルコのエルドアン首相が、ライバルであった日本の安倍首相に駆け寄って抱擁し、お祝いをしたことが、清々しいニュースとして大きく報じられました。それに伴い、トルコ人の親日ぶりも伝えられました。
実は、トルコに限らず、アフガニスタン、イラク、イラン、インドネシア、エジプト、パキスタンなど、多くのイスラム圏の国の人々は親日感情が強いそうです。本書の前半では、イスラム政治の研究者である著者が実際に耳にし、体験した、イスラム圏の人々の親日ぶりやその感情が作られた理由が紹介されています。
近代化の過程で、日本が欧米列強と戦争をし、それらと肩を並べる経済大国になったことが、イスラム圏の人々に日本に対する尊敬の念をもたらしたそうです。多くのイスラム圏の国は欧米列強に抑圧されてきた歴史を持っています。また、日本人が大事にする義理・人情の気持ちや、日本人の勤勉で規律正しい国民性に共感しているそうです。
本書の後半では、イスラム教の簡単な解説に加え、日本とイスラム圏との政治問題についても考えが示されています。イスラムの人々の親日感情は、日本にとって重要な外交上の財産になっているにもかかわらず、日本政府はそれを生かす政治を行っていないことが指摘され、今後のあり方について著者の考えが示されます。
私たちの多くはイスラム圏についてよく知りません。印象に残っているのは、戦争やテロのニュースばかりかもしれません。しかし、イスラム圏は石油等の天然資源が豊富で、現在日本の輸入相手国トップ10のうち5つがそこに属する国です。そして、人口16億人を抱える大きな市場を持ち、その発展が見込まれています。実際、私たちにとって極めて重要な存在なのです。
本書は親日を切り口にイスラム圏を紹介しており、イスラム圏の国や人を知るきっかけを与えてくれることは間違いありません。本書を読めば、エルドアン首相の抱擁の重みとそこに込めた気概を感じることができるかもしれません。
※女性セブン2013年10月24・31日号