国際情報

上海で行われた除幕式で李克強氏行方不明事件発生 内幕解説

 習近平主席と李克強首相という中国ナンバー1、ナンバー2の間にギクシャクが生じている。ジャーナリストの相馬勝氏が、9月に発生したある“事件”について、その内幕を解説する。

 * * *
 政権内の権力闘争再燃を思わせるちょっとした“事件”が起きた。「リコノミクス」といわれる李克強の経済政策のなかにあって最重要の改革モデルである上海自由経済試験区の除幕式に、なぜか李本人の姿がなかったのだ。

 社会主義的な規制が残る金融や貿易の弊害を取り除き、金利の自由化や人民元・外国通貨兌換の制限撤廃、一部の関税障壁の除去や手続きの大幅な緩和など、欧米や日本にならった先進的な経済システムへの移行を盛り込んだ重要な改革モデルである。11月に行なわれる第18期中央委員会第3回総会(3中総会)でもその是非が協議されるリコノミクスの要だ。

 しかも、李克強は9月27日から江蘇省と上海市の視察中で、除幕式が行なわれた29日には上海にいた。ところが除幕式に出席したのは党政治局員でもない高虎城・商務相だった。ある上海市幹部は「習近平指導部は、自由貿易や金融改革で必ずしも一致していないのでは」と懸念する。中国政府の内部事情に詳しい在北京の経済紙記者が明かした“李克強行方不明事件”の内幕は以下の通りだ。

 上海に乗り込んだ李克強に「党政治局員以上は『八項規定』を再度徹底せよ」との習近平のメッセージが届いたという。八項規定とは昨年12月、指導部発足後初の党政治局会議で習近平が打ち出したもので、会議の簡素化や倹約の励行などを謳っていた。

 特に、視察では随行者を減らし、大衆による送迎を用意せず、歓迎の絨毯を敷かず、花を飾らず、宴席を設けない、そして儀礼的な除幕式などには極力参加しないとされた。「つまり、李克強は習近平に除幕式参加を禁止されたのだ」と記者氏は指摘する。

 習近平が改革に消極的なのかはさらに慎重に判断する必要があるが、少なくとも最近の保守強硬派ぶりは度が過ぎているように映る。中国政府は10月中旬、報道関係者25万人に対して、「中国の特色ある社会主義」や「マルクス主義報道観」などイデオロギー色の強い問題について研修と試験を受けさせると発表した。習近平は今年8月にも全国の宣伝担当者の会議で、「イデオロギー工作は党の極めて重要な任務」と述べて言論統制を強める構えをみせていただけに気になる動きだ。

 さらに北京大学は著名な改革派経済学者、夏業良・経済学院副教授を解雇した。夏副教授は、ノーベル平和賞を受賞した服役中の反体制作家・劉暁波氏らが起草し、中国の民主化を求めた「〇八憲章」の署名者として知られる。習近平の左傾化と、改革推進を主導する李克強への“仕打ち”は無関係ではあるまい。

  一方の李克強は9月30日の国慶節の祝賀レセプションで演説し、習近平の標榜する「中国の夢」について申し訳程度に1回言及しただけだった。その代わり胡錦濤の科学的発展観を強調してみせた。

 北京の共産党筋は「波乱含みの展開だ。習・李の間で暗闘が繰り広げられているのは間違いない。しかし、総書記である習近平が強いことは当然で、李克強は常務委員7人中唯一の改革派だから多勢に無勢でもある。3中総会で改革案が骨抜きにされるのは目に見えている」と指摘する。

※SAPIO2013年12月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン