エルピーダメモリが会社更生法を申請するなど、国内の半導体産業は弱体化の一途だが、「半導体製造装置」は現在も日本メーカーの存在感が大きい。9月に、東京エレクトロンが米・アプライドマテリアルズとの統合を発表したことは、半導体業界だけでなくすべての日本メーカーで大きな衝撃をもって受け止められた。そんな東京エレクトロンでは、どのような人材教育が行われているのだろうか? ジャーナリストの永井隆氏がリポートする。
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統合相手のアプライドの関係者はこう語る。
「東京エレクトロンの人材は肉食系ですね。特に上層部はその傾向が顕著。互いの足を引っ張り合い、時には“倍返し”がある銀行とは性格が違うものの、実力主義ははっきりしています」
一方で東京エレの若手社員は、「出世は実力主義が大いに関係しますが、人の育成にはカネと時間をかけてくれる日本的な会社だと思います。人事部門も『人材育成は技術育成と同じくらい大事だ』と言っている」と語る。海外18か国で70拠点を持つグローバル企業だけに、弱肉強食の部分と、日本的な部分の両方を持ち合わせているようだ。
同社の人材育成制度は確かにユニークだ。将来のマネジメント層の候補となる「次世代経営者プログラム」や「次々世代経営者プログラム」、さらに「MOT」を学ぶ制度もある。これはManagement Of Technologyの略で、技術版MBAとも言われる。技術を使ってイノベーションを生み出すための経営管理、戦略立案などを扱う学問だ。
「軽井沢にある研修センターでは、幹部候補生を選抜して教育プログラムを実施しています。研修所の料理は、あの『星野リゾート』が手がけています。そのうまい料理を目当てに『行きたい』という若手も多いんですよ」(同前)
技術者向けには、2008年に「チャンピオンセミナー」と呼ばれる研修を始めた。高い技術を持つ社員を先生役として、専門外の技術者たちに講義し、全体のレベルアップを図るものだ(現在はセミナーの名称は変わったが、同内容の研修を実施)。
「悩みもある」と語るのは半導体産業新聞編集長の津村明宏氏だ。
「一般に馴染みがない製品を扱っているだけに、優秀な学生をどう集めて採用していくかが課題となっています。そのためにメセナ活動などに力を入れている。例えば、宮城県民会館のネーミングライツを買って『東京エレクトロンホール宮城』としたり、マラソン大会に協賛したりしている。それによって知名度が上がり、だんだん優秀な学生も集まるようになってきたそうです」
ちなみにネーミングライツは年間5000万円だ。さらに昨年は、内定者を対象に運動会を開催。入社4年目には、グループ各社の社員と一緒に2日間の研修を受ける。自らの専門に偏りがちな技術者らに一体感を持たせる狙いだ。日本的な部分の象徴である。
※SAPIO2013年12月号