「東京オリンピックに関わりたい」と語るAGT優勝ダンサー・エビケン氏
――日本人がアメリカで勝負する大変さはありませんか?
蛯名:僕はないと思います。英語ができれば後は特にない。ただ、ダンサーとして生きていくなら、スタイルが不利になることはあるでしょう。でも、アメリカン・バレエシアターで頑張ってる友人や、トップアーティストのバックで踊っている友人もますし、人それぞれ。
一方、僕の場合は、ダンサーではなくパフォーマーとして勝負してるので、スタイルも関係ないんですね。アジア人だからどうこうっていうのは、これまでほとんど感じたことはありません。
――挫折経験など、ないのでしょうか。
蛯名:うーん、僕は、挫折も努力も苦労もした覚えがないんです。そもそも努力が嫌いで(笑)。それでやってこられたのは、一つには好きなことをやってるから、そういう意識にならない。
もう一つは、努力が嫌いだから、ラクして生きられる道を探してきたんですね。そういう意味では頭は使ってると思います。ダンスがそれほどうまくない僕がどうやって生き残っていくか。そう考えて、ダンス以外の要素を積極的に取り入れ、工夫するようになっていった。AGTで言えば、バラエティ感を出すことで、他の人との差別化を図った。試行錯誤しながら、マーケティングと戦略(演出)に頭を捻ってきました。
――“見せ方”で勝負する。あまり得意でない日本人も多いと思います。
蛯名:そうかもしれません。日本人のパフォーマーには、技術を高めていく職人肌の人が多い。それは大事なことだし、日本の良い文化で僕も好きなんだけど、超絶テクニックになればなるほど、コアな人にしか伝わりづらくなる面がある。だからハイクオリティなものの需要は小さくなりがちです。
これはなんでもそうで、例えば電化製品などにも同じことが言えるかもしれません。世界中がハイスペックのコンピューターを必要としてるわけではない。安価な入門モデルで十分な人の方が多い。どちらが良い悪いではなく、双方に見合ったマーケティングと戦略があるはずだと思っています。
えびな・けんいち●1974年生まれ。1994年留学のため渡米。在学中に様々なジャンルのダンスを独学で学ぶ。大学卒業後2001年、NYハーレムのアポロシアターで開催される「アマチュアナイト」で日本人初の年間総合チャンピオンに。2007年にはアポロシアターTV版のコンテスト番組「Showtime at the Apollo」で7回連続優勝を果たし、アポロシアター史上唯一の2冠達成。同年、TED会議のステージに招かれパフォーマンスを披露。現在、NYを拠点に世界各地でパフォーマンスを行うほか、様々なダンスやシアターのカンパニー、プロジェクトにおいて舞台演出、振付、パフォーマンスを手がける。愛称は「エビケン(EBIKEN)」
