浅井さんおすすめの擬人化されたT34中戦車
――第二次世界大戦当時の国家を擬人化したマンガ「Axis powers ヘタリア」の単行本が出版されたのも2008 年ですね。
浅井:それまでアニメやゲーム業界では、若い人は第二次世界大戦なんて古臭くて嫌いなんじゃないかと言われていたようです。実際は逆で、時間が経ったことで第二次世界大戦を、従来のイデオロギーに関係なく客観的に見られる若い人が増えていると感じます。1970~80年代だったら、直接、第二次大戦を想起させるようなアプローチは難しかったと思います。
ミリタリー好きにとって第二次世界大戦は避けて通れない基本にして王道のジャンル。実際、1970~80 年代でも「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」のように第二次世界大戦をモチーフにしたSFアニメ が大ヒットしました。1990 年代になりますが、「新世紀エヴァンゲリオン」でも登場人物の名前は綾波、惣流(蒼龍)、葛城、赤木(赤城)など日本海軍の艦艇の名前から取られています。制作する側に第二次大戦のミリタリー好きが多かった。第二次世界大戦は、それこそ「ガンダム」の「一年戦争」のようなものなのです。
ここ数年で、SF やロボットの形を取らずに第二次世界大戦をモデルとしたアニメやゲームなどが多く発表されるようになってきました。それに、最近は世界情勢が変化して軍事の話題が身近になりました。中国の軍拡についてよくニュースでも耳にしますし、災害救助などでの自衛隊の活躍も身近な話題になっています。
――中国といえば、ウクライナから古い軍艦を買ったことがニュースになっていましたね。
浅井:航空母艦の「ヴァリャーグ」が中国に買われて「遼寧」に衣替えした話ですね。「MC☆あくしず」では、ウクライナの美少女がチャイナドレスを着るという擬人化イラストを載せています(笑)。
――擬人化が止まらないですね。
浅井:どの兵器を擬人化しようとも基本的には誰にもお金を払う必要がない、版権フリーだということも大きいですね。同じように版権フリーの戦国時代や三国志の武将は何度もゲームになっていて脚色も大胆です。また、有名な歴史の一部ですから元ネタがある程度知られていることで、受け手にも親しみやすいというメリットもあります。
――萌えミリタリーはもっぱら男性がお客さんなのでしょうか?
浅井:艦これの場合は女性のユーザーも少なくないと聞きますね。二次創作の人気が高く、かわいいコスプレができるという点でも女性をひきつけているようです。それでも、メインターゲットは男性だと思います。
女性の場合、兵器の擬人化というと完全に人間化した擬人化、たとえば戦艦「大和」なら普通に日本海軍の軍服を着た長身のイケメンにする、といった傾向が強いです。砲塔などのメカが付いてないことが多いんですよ。零式艦上戦闘機を擬人化するにしても、日本海軍のパイロットの格好をさせるだけでプロペラや主翼はつけない。男性はメカも女の子も好きなので、「カレーも牛丼も一緒に食べたい!」というように女の子とメカを一緒にするのかもしれません。
●浅井太輔(あさい だいすけ)イカロス出版株式会社の季刊誌『MC☆あくしず』、『ミリタリー・クラシックス』副編集長。2005 年出版の『萌えよ! 戦車学校』をはじめ美少女とミリタリーを組み合わせたコンセプトの書籍の編集に数多くたずさわる。2006 年創刊の『MC☆あくしず』は萌えミリタリー雑誌の草分け的存在で、立ち上げから一貫して関わる。好きな艦娘は「神通」と「陸奥」。