高校時代、女子の意地悪から水樹がリレー選手に選ばれた時のこと。父に似て運動神経抜群な信也は先行勢を次々に抜き、〈熱の塊〉となってバトンを水樹に繋ぐ。その気魄と風圧にパスゾーンが大混乱に陥る間、〈全力でいけ。人の全力を笑うやつは最低や〉という信也の言葉を信じた水樹は見事ゴールテープを切ったのだ。
「これはうちの子供の運動会で本当に見たシーンで、ああ、気魄ってあるんやな、人間、どんなに負けてても最後まで何が起きるかわからへんなって教えられた。この気魄というのが今一番必要なんじゃないかなって。
そんな全力の尊さを教えてくれた信也が、今どうしてるかな、会いたいなあと読者が思ってくれたら嬉しいし、壁や岐路に直面した時、あともういっぺん頑張ってみようと思える小説を私は書きたい。水樹と同じで、自分の色が誰かの大切な色になる、そんな仕事をしていきたいんです」
正浩や悠人、憲吾や遠子、そして一見身勝手な親たちもそう。どんな過酷な現実にも〈自分の闘い方〉を見つけ、全力で生き切る、彼ら全員に会いたくなる小説だ。最後に一言だけ注意事項を言うと、本書は決して通勤中や公の場で読まないこと。たぶん涙と嗚咽で、とんでもないことになります!
【著者プロフィール】
藤岡陽子(ふじおか・ようこ):1971年京都市生まれ。同志社大学文学部卒。報知新聞大阪本社入社後、ゴルフ、高校野球など一般スポーツを担当。1997年退社、タンザニア・ダルエスサラーム大に留学。帰国後小説を書き始め、2001年慈恵看護専門学校入学。2006年「結い言」で北日本文学賞選奨を受賞し、2009年『いつまでも白い羽根』でデビュー。本書は5作目。他に『トライアウト』『ホイッスル』等。週に1、2回看護師として働く2児の母。京都在住。156cm、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年3月14日号