--制作でとくに気をつけたことはなんですか。
古田:「Snow Fall」が出たとき、いろんな要素と技術をを盛り込みすぎて「わかりにくい」という声もあったんですよ。それで今回はデザイナー の寺島隆介が「1スクリーンに3つ以上の情報を載せない、シンプルな作りで行こう」という意見でまとまって調整しました。1行の文字数、ホイールを何回回せば最後までいくのか、これはクリエーターたちがかなりこだわったところです。
--僕はコンテンツの冒頭で始まる浅田選手の線描画がとても印象的で、なにか特別なことが始まるわくわく感がありました。
古田:冒頭に印象的な仕掛けを置いて、リーダーをその世界に没入させるイマーシブ(没入)コンテンツ、イマーシブジャーナリズムという手法です。最初は動画を置くことを考えたんですが、IOCの規定でそれができないことがわかり、デザイナー自ら線画を描きました。結果的に動画だとみんなテレビで見慣れているので、それが良かったのかなと思います。
古田:朝日新聞にデジタル編集部ができて2年になるんですが、クリエイターやデザイナーが社内にいるのが大きいですね。みんなウェブの知識がすでにあって、問題意識も共有されているから話がスムーズに運びました。「ラストダンス」はフィギュアスケート担当記者の後藤太輔、現地入りした3人のカメラマン、前職ではカーナビのUIをつくっていた佐藤義晴やゲームをつくっていた白井政行といった技術者が制作のいろんな局面で知恵を出し合って作れたことが大きい。
--これからメディアでもパララックス技術を使ったイマーシブコンテンツが増えていくと思いますか。
古田:読んでくれた方の評価は高くて、90%以上が高評価でした。ただそれが朝日新聞に対してなのか浅田真央さんなのかわかりませんが(笑)。社内的にはスポーツ部以外からも今回のような取り組みが出来ないかという声がすでに寄せられています。でも手間とコストがかかるコンテンツですからそんなにポンポンできるものではないし、それに見合うPVが必ず稼げるかといったら、そんな甘いもんじゃないと思います。
古田:チームで共有していた思いは今回の「ラストダンス」では、浅田真央さんという存在を通して、スポーツ選手全体に通じる姿を見て欲しかったんです。12歳の彼女の「嬉しい」という無邪気なコメントが、世界トップレベルで競う選手として人間的な重みのあるコメントに変わっていく。そういう彼女の人間的な成長に我々は感動したと思うんです。そこを描くのに今回の表現方法は最適でした。PVだけを求めるためではなくて、より複合的に情報を組み合わせた方が読者に届きやすいコンテンツに関して、この技術は積極的に使えるのではないかと思っています。