ビジネス

保険営業マンが嫌う客は「合理的に判断し冷徹に行動する人」

 生命保険の営業テクニックを行動経済学の視点からみると、売り手は「感情に流されやすい」という人間の弱みを突いていることが分かる。『生命保険の嘘』(小学館刊。後田亨氏との共著)を上梓したオフィス・リベルタス代表の大江英樹氏が解説する。

 * * *
 行動経済学には、エコンとヒューマンという考え方があります。どちらも同じ「人間」を表わす用語です。これは2種類の人間がこの世に存在するという意味ではありません。概念的に人間を定義しているものです。

「エコン」は純粋に自分の利益だけを考えて、合理的に判断し、冷徹に行動する人です。一般の経済学では人間は全て「エコン」だと考えます。彼らには“優秀な営業担当者”の手練手管は一切通用しません。

営業担当者:「私の父もがんになったのですが、保険に入っていたおかげで救われました。だから……」

エコン客:「誰もあなたのお父さんのことは聞いていません。それよりもがんになった場合に必要とされる費用の平均を、私の年齢及び今後の加齢に伴うがん発症確率分布グラフ上にプロットしてください。次に、支払うがん保険の保険料を段階的にプロットして、さきほどの曲線と交差する以下の水準であれば、加入を検討してみます」

 これではいかに凄腕の営業担当者でも加入させるのは無理です。保険は確率計算を根拠にした商品ですから、本来はそういう計算をしたほうがいいのです。でも普通はこんなお客さんはいないでしょう。一方の「ヒューマン」はどうでしょうか。

営業担当者:「私の父もがんになったのですが、保険に入っていたおかげで……」

ヒューマン客:「あら、そうだったの、それは大変だったわねえ。でもやっぱりそういうことってあるのね。だから安心のために入っておかなきゃね」

 むしろこれが普通でしょう。ヒューマンは血も涙もあり、情に流され、不合理と思える行動をしてしまう人間のことです。行動経済学ではそれが普通の人間だと考えます。優秀な保険の営業担当者はこの点をよく理解していますから、エコンな人には近寄らず、ヒューマンな人をターゲットにするわけです(もちろんそれは保険営業に限りません)。

※後田亨・大江英樹/著『生命保険の嘘』(小学館刊)より

関連キーワード

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン