ライフ

戒名自作で僧侶の形相が激変 「弔い」の意味を探究したルポ

【書評】『父の戒名をつけてみました』/朝山実/中央公論新社/1575円

【評者】鳥海美奈子(ジャーナリスト)

 * * *
 家族が亡くなったとき、多くの人はお寺に払う葬儀費用が高額なことに驚く。お布施に加えて、戒名料も「お気持ち」で渡さなければならない。しかし、初めてであれば相場も段取りもわからないのが一般的だ。不満や疑問を抱えつつも、葬儀社や檀那寺に言われるままに物事を進める人が大半なのではないだろうか。

 著者は父の訃報に接し、戒名を自分でつけてみようと考える。本書はそんな出来心が引き起こした、父の葬儀にまつわる1年半の体験を綴ったルポルタージュである。

 父は日頃から、「葬式なんかいらん」と断言していた。実家へ向かう新幹線のなかで生前の姿を想いつつ、戒名を決める。きょうだいと話し合い、喪主となった著者は家族葬を行うことにした。それ以外にも、多くの決断を迫られる。父を預けていた介護施設から家まで「御遺体」を運ぶ車をどうするか。棺桶や骨壺、祭壇の花は…等々。それでも何とかすべてを手配し終え、明日が通夜という段になって、いよいよ檀那寺に連絡を入れた。

「戒名は家族で決めた」。

 そう告げると、住職は威圧的にこう答えた。

「何を企んでおられるのか」「どんなビジネスにも、立ち入ったらいけない領分というものがある」。

 戒名を「ビジネス」と断言したことに著者は大きな違和感を覚える。あげくの果てには、「そんな料簡じゃ、先祖代々もどうなるかわからんよ」と、一家の墓を檀那寺に置けなくなると恫喝してきたのだ。

 そこへ複雑な家庭事情も加わり、事態はさらに紛糾していく。父と仲違いしていた兄が遺産総額を5億円と見積もり、そのうち2億円を要求してきたのである。

 戸惑い、動揺するばかりの日々のなかで、著者は友人や学者に戒名についての取材を重ねていく。お布施と戒名代をあわせて「100万円」と住職からはっきり金額を提示された人。ブッダの誕生したインドや中国など、他の仏教国には戒名が存在しないこと。さらには日本でも寺の経営が困難な宗派ほど、戒名が高額だという事実も知る。

 本書は、一種の葬式ガイドブックのような趣もある。しかしそれ以上に、「親の死を弔うとはどういうことか」を問い続ける著者の姿に、読者の多くは共感することだろう。その文体はおかしみやユーモアに溢れ、一気に読了へと誘う力を持っている。

※女性セブン2014年4月3日号

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
3大会連続の五輪出場
【闘病を乗り越えてパリ五輪出場決定】池江璃花子、強くなるために決断した“母の支え”との別れ
女性セブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン