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困難極める福島原発廃炉作業 原子炉内は未だ見られない状態

「(福島第一原発は)コントロールされている」──安倍晋三首相が全世界に向けて宣言してから半年以上経ったが、今も高濃度汚染水の漏洩が続いている。政府は再稼働に向けて大きく舵を切ろうとしているが、廃炉作業はまだ始まったばかり。

 必死の作業が続く現場では今、作業員の確保、安全への意識の低下など、深刻な問題が起きていた。福島第一原発内部の取材をしたジャーナリスト・藤吉雅春氏が、その知られざる実情をリポートする。

 * * *
「この辺りがホットスポットだったところです」。小型バスがカーブを曲がると、運転席の横にいた通訳の女性が、マイクを片手に英語で案内する。放射性物質が多く残留していた地点だと言われても、窓から見えるのは、作物が植えられていない寒々とした田畑ばかりだ。

 バスは一本道を進み、フロントガラスの向こうにこんもりとした森が見える。木々の上に巨大な箱型の建物の角が姿を現す。パネルで覆われた福島第一原発だ。

 3月12日、アメリカ政府原子力規制委員会(NRC)の前委員長、グレゴリー・ヤツコ氏(43才)らとともに、私は福島第一原発のゲートをくぐった。

 震災時にNRC委員長だったヤツコ氏は、強い安全対策をアメリカの原発に求めたため、原発産業と対立。2012年、彼は委員長を辞任している。しかし、その後もフリーの身で福島の問題を追い続けるヤツコ氏は今回、「福島原発事故検証委員会(民間事故調)」の「財団法人日本再建イニシアティブ」の招きで来日した。目的は、自分の目で現状を確認することだ。

 さっそく私たちは小部屋に通されて、防護服、マスク、ゴーグル、手袋など完全装備の仕方を東電の職員たちに教えてもらい、原発内部を案内されることになった。手袋は3枚を重ね、靴下は厚手を2足重ねる。頭からつま先まで完全密閉だ。

「6月以降は視察ができないんですよ」と、隣で東電の職員が言う。防護服を着るとサウナ状態になり、熱中症になるからだ。これまでも作業中に脱水症状で倒れたり、気分が悪くなった作業員が搬送先の病院で死亡する事故が起きている。

「防護服の下に保冷剤を入れたベストを着るようにしているのですが、効き目がないんです」(東電職員)

 現在、福島第一原発では毎日3000人以上の作業員が働いている。震災前から働く技術者が言う。

「3000人のうち2000人が瓦礫の撤去や森林の伐採、穴掘りなど単純労働。700人から800人が汚染水をタンクに移す循環処理。残りの200人余りが技術試験を行っています」

 3月28日に地中の穴で作業をしていた作業員(55才)が生き埋めになり死亡する事故が起きたが、こうした土木工事が多く行われる理由のひとつに、汚染水対策がある。

 原発敷地内に入ると、目につくのは汚染水を貯蔵する巨大な円筒形のタンクの多さだ。敷地内のあちこちにタンクを増設しているのだ。現在その数は約1000基。タンクだらけといっても過言ではない。

 東電の説明によれば、「現在、47万トンの汚染水をタンクで貯蔵していますが、2年以内に80万トンを貯蔵できる施設をつくります。そのため、敷地内の森林を伐採して場所を確保しています」という。

 福島第一原発が今、抱える課題は大きく2つある。まず、1号機から3号機の燃料を冷却するために注水する400トンと山側から流れてくる地下水400トンの、1日800トンも出る放射能に汚染された水の処理だ。

 次に、燃料の取り出しである。ヤツコ氏が「大きな前進」と言ったのは、使用済み燃料プールからの燃料取り出しが始まった4号機だった。

 4号機は爆発によって鉄骨がグシャグシャになり、壁は吹き飛び、「建物が傾いていて、台風や地震でいつ倒壊してもおかしくない」と、現場で囁かれていた。それが現在は、東京タワーと同じ材料の巨大な鉄骨で新たな建物に生まれ変わっている。中に入ると、エレベーターがあり、まるで稼働していない静かな鉄工所のようだ。2階に上がると、大きなクレーンで燃料プールの中から使用済み燃料を取り出す準備が行われていた。

 ただし、ここまで何とかこぎ着けたものの、作業は決して順調ではない。燃料を取り出すクレーンが故障して、作業がストップすることがあるからだ。それに4号機以外は燃料を取り出すにも、機械を建屋の中に入れられるような状態ではない。重いクレーンを建屋の最上階に入れられるほど、建物がまだ安定していないのだ。ヤツコ氏は東電の増田尚宏特命役員にこう尋ねた。

「1号機から3号機までの原子炉内のデブリ(溶けた燃料)の状況はどうなっていますか?」

 増田氏は、「わかりません」と言うしかなかった。

「まだ原子炉の中を見られる状態にありません。2号機だけはロボットカメラで中の様子が見られるよう試みていますが、いつ頃になったらわかるかも、正確には答えられないのです」(増田氏)

※女性セブン2014年4月17日号

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