国内

福島第一原発 以前から問題多く「スパゲティ症候群」の指摘

 事故から3年が過ぎ、事故の記憶が少しずつ薄れているのとは正反対に、福島第一原発の現場では深刻さが増している。何かを処置すれば、また別の問題に直面するその繰り返し。ある原発で所長を経験したことのある人物は、この状態を指して、「まるでスパゲッティ症候群だ」と言う。しかも、「震災前から原発はスパゲッティ症候群だったんです」と言うのだ。ジャーナリストの藤吉雅春氏が現地の実情をリポートする。

 * * *
 スパゲッティ症候群とは、重病患者を治療するため、体中にたくさんのチューブやセンサーを取り付けた状態のことだ。次から次にチューブは増えていき、一体、何の目的かもわからなくなっていく。効果がないかもしれないが、チューブを外せば絶命してしまうかもしれない――

 メルトダウンする以前からスパゲッティ症候群だったとはどういう意味だろうか。

 まず、事故前に福島第一で安全管理を担当していた東電保全部の元関係者が、こんな話をする。

「安全管理の担当者は、鬱気味の人が多かったと思う。仕事熱心な人ほど、精神が崩れていくのです」

 この話を別の東電関係者に話すと、「私も人のことは言えません…」と、気まずい空気になり、こう言われた。

「自分は何のために仕事をやっているのか、わからなくなるのです。国やマスコミや地元議会に叩かれないためなのか。叩かれないために、管理強化一辺倒となり、“人”は疎かにされていきました」

 きっかけは、2002年に福島第一原発などでトラブル隠しが発覚し、国の安全規制が厳しくなったことにある。安全強化は一見よいことのようだが、前出の元保全部関係者は、「こんな些細なことまで報告しなければならないのか」と思ったという。

「福島第一原発の中に設置された『不適合管理委員会』が毎週火曜日に不適合事例の検証を行い、それを5段階にランク分けします。不適合といっても、設備の不備や、水をこぼしたといったものから、部屋の壁にペンキを塗る時の刷毛の種類や下塗りの厚さ、とにかく細かいことをすべて書類にして検討するのです」(元保全部関係者)

 1か月で審議される不適合事例は、なんと600件以上。審議後、現場で対策を考えて、再度書類を提出する。

 書類主義は安全に見せる“儀式”のようだ。ミスが発覚すると、東電の幹部が記者会見で深々と頭を下げる。そのたびに検査項目が細かくなり、不適合管理委員会による大量の検討書類が増える。

 これで世の中は「安全になった」と思いこむが、原子力安全・保安院の元関係者はこう言うのだ。

「“木を見て森を見ず”の検査になり、本当の意味での安全の議論などする余裕がなくなるのです」

 現場からは本末転倒の声が聞こえてくる。

「書類に縛られて、プラントを見に行く時間が減った」

 これでは何のための安全対策なのか。規制が増えてこんがらがり、安全対策担当者たちの精神が次第にまいっていく。これがスパゲッティ症候群だというのだ。

 東日本大震災の数日前、前出の元保全部関係者は、仕事帰りに東電の先輩から不安な顔でこんな悩みを聞かされた。

「共産党が議会で津波対策のことを指摘するらしい」

 当時、最大で15.7mの津波が起こりうると試算されたものの、東電はその対策に莫大な予算と年月がかかることから躊躇していた。元保全部の彼もこう返した。

「そんな大きな津波が来るわけがないじゃないですか。新しい想定といっても、それは机の上で研究している人たちが言っているだけですよ」

 目の前にある膨大な検査に追われて、本当に来るかわからない津波など考える余裕はなかった。いちばん重要なことを後回しにする危険な思考回路に陥っていたのだ。この会話から数日後、巨大な津波によって3つの原子炉がメルトダウンするという最悪の事態が現実化したのだ。

※女性セブン2014年4月24日号

関連記事

トピックス

不倫が報じられた錦織圭、妻の元モデル・観月あこ(時事通信フォト/Instagramより)
《結婚写真を残しながら》錦織圭の不倫報道、猛反対された元モデル妻「観月あこ」との“苦難の6年交際”
NEWSポストセブン
国民民主党から参院選比例代表に立候補することに関して記者会見する山尾志桜里元衆院議員。自身の疑惑などについても釈明した(時事通信フォト)
《国民民主党の支持率急落》山尾志桜里氏の公認取り消し騒動で露呈した玉木雄一郎代表の「キョロ充」ぷり 公認候補には「汚物まみれの4人衆」との酷評も出る
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《永野芽郁に新展開》二人三脚の“イケメンマネージャー”が不倫疑惑騒動のなかで退所していた…ショックの永野は「海外でリフレッシュ」も“犯人探し”に着手
NEWSポストセブン
“親友”との断絶が報じられた浅田真央(2019年)
《村上佳菜子と“断絶”報道》「親友といえど“損切り”した」と関係者…浅田真央がアイスショー『BEYOND』にかけた“熱い思い”と“過酷な舞台裏”
NEWSポストセブン
「松井監督」が意外なほど早く実現する可能性が浮上
【長嶋茂雄さんとの約束が果たされる日】「巨人・松井秀喜監督」早期実現の可能性 渡邉恒雄氏逝去、背番号55が空席…整いつつある状況
週刊ポスト
発見場所となったのはJR大宮駅から2.5キロほど離れた場所に位置するマンション
「短髪の歌舞伎役者みたいな爽やかなイケメンで、優しくて…」知人が証言した頭蓋骨殺人・齋藤純容疑者の“意外な素顔”と一家を襲った“悲劇”《さいたま市》
NEWSポストセブン
6月15日のオリックス対巨人戦で始球式に登板した福森さん(撮影/加藤慶)
「病状は9回2アウトで後がないけど、最後に勝てばいい…」希少がんと戦う甲子園スターを絶望の底から救った「大阪桐蔭からの学び」《オリックス・森がお立ち台で涙》
NEWSポストセブン
2人の間にはあるトラブルが起きていた
《浅田真央と村上佳菜子が断絶状態か》「ここまで色んな事があった」「人の悪口なんて絶対言わない」恒例の“誕生日ツーショット”が消えた日…インスタに残された意味深投稿
NEWSポストセブン
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン