ビジネス

肉食ブームの裏で畜産農家が悲鳴 子牛の価格は約2倍に高騰

美味しい肉も誰かが作ってくれたからこそ

 食肉業界を取り巻く状況が厳しくなっているのをご存じだろうか。消費者として、畜産農家の苦労はもはや他人事ではない。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が語る。

 * * *
 牛、豚、鶏などの畜産を取り巻く状況が厳しい。しかもそれぞれ違う原因なのが余計に厄介だ。

 まずは牛だ。このところ和牛の価格が急騰している。それもA-5、A-4といった高級和牛ばかりではない。それほど高級でない和牛が値上がりしているのだ。例えばB-3という中程度の牛肉の卸売価格は一昨年から昨年にかけて1.5倍以上に。一昨年と今年を比較すると1.9倍にもなっている。一般消費者向けの流通業者は「卸値がここまで高いと、当然販売価格に反映せざるを得ません。ただ、消費者の理解を得られるかどうか……」と顔を曇らせる。

 食べ物の価格変動の要因はシンプルだ。原価と流通量に尽きると言っていい。現在の和牛価格の高騰は、需要増に加えて「原価」でもある子牛の価格上昇という要因も大きい。

 和牛の生産は、主に繁殖農家と肥育農家にわけられる。繁殖農家は母牛とその母牛から生まれた子牛を飼育し、数か月育てたところでセリにかける。セリでは肥育農家が血統などを検討しながら入札して、その後、手塩にかけて肥育する。もちろん入札の際、かけ合わせのいい血統の子牛は高値がつきやすい。

 いまから5年前、2009年6月には黒毛和種の子牛取引価格の平均が34万円台だった。しかし、現在の取引価格は約60万円前後と当時の約1.8倍で推移している。その大きな理由は供給頭数の減少だ。2009年度には39万頭近く取引されていた黒毛和牛の子牛の取引頭数は、13年度には約35万頭に減少した。

 全国の繁殖農家の数も5年前の約8万戸から6万戸へと減った。その背景には2010年に宮崎を襲った口蹄疫や、2011年の東日本大震災などをきっかけとした繁殖農家の離農なども挙げられる。当時の戸数の減少率を見ると、2011年の宮崎県の減少率は11.9%、福島県の減少率に至っては23.4%と大きなダメージを負った。

 牛ばかりではない。豚肉も受難である。昨年10月、国内で7年ぶりに確認されてから、もはや全国的に猛威を振るっている豚流行性下痢(PED)の影響で養豚業者は防疫対策に追われている。もともと養豚業者の間では、防疫体制の徹底は日常的に行われていたにもかかわらず、全国に広まってしまった。流通の現場では「実際に品薄というわけでないが、雰囲気としての品薄感は出始めた」(都内スーパーの精肉コーナー担当)という。

 鶏も被害を受けた。4月には熊本で鳥インフルエンザが発生し、熊本県は合計11万2000羽を殺処分した。迅速な初動で被害を最小限に食い止めた形となり、5月8日には終息宣言も出されたが、改めて感染症の恐ろしさを思い知らされた。

 ここ数年、都心でも次々に肉を食べさせる新業態の店舗がオープンし、「肉食」ブームはますます活況を呈している。ただうまいうまいと食べるのもいいが、その一切れを口に運ぶとき、たまには生産者の尽力を思い浮かべてみる。きっとその肉の味わいはより深くなるはずだ。

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン