坂井たちは五輪後に台湾に渡り、郭兄弟の説得に当たった。後に坂井から聞いたところによると、この時点で巨人はすでに、泰源に白紙の小切手を2枚渡していたという。先に目をつけていた選手を“横取り”されては敵わない。

 坂井らは急ぎ契約を結んで入団発表を実施、会見の前にその小切手を破らせた。会見を急いだのは、「巨人・王貞治監督が訪台する」という情報をキャッチしていたからだ。台湾でも英雄視される王監督が来て、泰源に接触すれば、何が起きるかわからないという思いがあっての決定だった。

 一連の獲得合戦は、私も現地で取材していたが、私のような野良犬ごときには敵う世界ではないと思った。その時の苦しさは今でも忘れられない。坂井は発表後しばらく姿を消し、どこに隠れたか、決して口を開かなかった。

 この時の取材中、郭泰源の姉に聞いた話が印象的だった。

「台湾人は貧しいから誰でもお金がほしい。泰源もそれを考えてくれればいいのに。でも最初に井戸を掘ってくれた人のことを忘れないのが台湾人だから」

 坂井はダイエーの球団代表を辞めた後、しばらく鎌倉市観光協会の専務理事を務めた。ゴルフが趣味で、「鎌パブ(鎌倉パブリックゴルフ場)の鬼」といわれる赤チタンドライバーの名手。とにかく負けず嫌いで、今でも私に飛距離を10cmでも超されると大騒ぎする。80歳を越えても、無邪気なものである。

 統一球問題、コミッショナー問題など、最近の球界は細かなことばかりが騒がれるが、坂井のような人物がいれば、球界はもっと面白くなるような気がしてならない。

※週刊ポスト2014年6月13日号

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン