中国が尖閣諸島占領に動き出したとして、「尖閣(魚釣島)奪還作戦」をシミュレートする際、米軍が参加した場合、戦闘機の性能差などもあり、日米軍の圧勝が予想される。だが、自衛隊が単独で戦うとなれば状況は一変する。
中国から紛争を仕掛けてくるケースでは、海戦に突入する前に、中国軍が尖閣諸島に上陸していることも十分に考えられる。魚釣島奪還作戦はどのように展開するか。
魚釣島から10kmの沖合に停泊する護衛艦「むらさめ」から陸上自衛隊「西部方面普通科連隊(西普連)」の精鋭数十名がゴムボートに乗り、恐らくは夜陰に乗じて島に上陸し敵陣を偵察、攻撃を加え、後続部隊(計200名)上陸の地ならしをするのがセオリーになる。
本来であれば先に精密誘導弾を使用した航空兵力で敵陣地を叩く方法も考えられるが、中国側が「魚釣島に上陸したのは民間人」と言い張るケースも想定し、自衛隊は上陸→奪還のシナリオを用意している。
後続の第2陣は沖合の「おおすみ」からエアクッション型揚陸艇で、第3陣は輸送ヘリCH-47からのヘリボーンで上陸する。しかし、先遣部隊の上陸地点には大量のクレイモア地雷が仕掛けられている恐れもあるうえ、待ち受ける武装兵の機銃掃射をかいくぐって部隊を島へ送り込むことは多大な犠牲を覚悟しなければ不可能だろう。
かねて指摘されてきたことだが、日本は戦略上重要な島嶼を多数有する一方で、それらの防衛や奪還のための装備、兵員、ノウハウが明らかに足りていない。
要となるのは「おおすみ」型の輸送艦(国際的には強襲揚陸艦)だが、中国の揚陸艦と比べても小型であり、わずか3隻しかない。上陸作戦を専門にする海兵隊もおらず、防衛・奪還の対象が複数の島になれば、中国との優劣はますます明らかになるだろう。
艦船、航空機、兵員でも中国は物量で自衛隊を大きく上回る。今回のシミュレーションで明らかになったのは、自衛隊が十分に戦える能力を持つことと同時に、中国軍を圧倒することまでは難しいという明暗両面の現実だ。戦いが長引き、両軍に損害が広がる状況になれば、じりじりと追い詰められる可能性が高い。
希望的観測で戦争はできない。現実を直視すれば、現行の自衛隊では、米軍抜きの島嶼防衛は非常に難しいとみるべきだ。
※SAPIO2014年7月号