〈海外で生産した商品を低価格で販売すること、世界じゅうにはびこる貧困とは、表裏一体の関係にある。所得と地域社会の安定を揺るがし、環境問題を絶望的なまでに悪化させているのは、現代人の極端な大量消費だとわたしは思う。なかでももっとも大量に消費されているものが衣料品だ。格安ファッションチェーンは、問題の多い現代の消費文化の縮図でもある〉
著者はそう結論づける。アメリカ国内のアパレル関係者、一般のファストファッション中毒者、古着の処理工場、さらには中国、バングラデシュ、ドミニカの生産工場までグローバルに取材しただけに、スケールの大きなルポルタージュになっており、読みごたえがある。
最後に著者は、スローファッション(少々高価でも、質のいい服、環境に配慮して作った服などを、愛着を持って長く着ること)への転換を提唱し、そのために服を手作りし、既製の服を手直しし、他人の服を受け継ぐことなどを奨め、自らも実践していると書く。
ファッションジャーナリストが飛びつきそうな聞き心地のよい提唱だが、それには簡単に賛同できない。〈現代は、誰もが流行を追い、最先端の服を身に着けることができる、いわばファッション民主主義の時代〉と著者が言うように、ファストファッションのおかげで貧困層はかろうじてファッションを楽しむことができる。
著者はファストファッションによってアメリカ国内のアパレル産業が大打撃を受けたと嘆くが、その分、労働環境はまだ劣悪なことが多いとはいえ、途上国の雇用は増えたのだ。“ファッション民主主義”には光もあれば影もあり、立場によってそれは逆転する。一方的に是か非かと結論付けることは難しい。
※SAPIO2014年8月号