怖くて暗くて重たくなりがちなドラマを、コミカルなキャラクターでやわらげる役割の美術教師を演じる伊藤淳史もどこかへんだ。流され型、巻きこまれ型のお人よしだが、まわりに振り回される以外の本人の顔がない。喜怒哀楽がはっきりしているのに、操り人形のようだ。
他の脇役たちも含めて、たいていの登場人物がなんらかの過剰や欠落を抱えている。仕事や異性やギャンブルなどに依存し、対人関係のバランスがおかしく、家族関係の歪みに向き合えない。全員が一人ぼっちで、このドラマには安心している人間の表情がほとんど映らない。「緊張感ぴりぴりの突き刺さってくる映像」は、役者たちが心を病んだ孤独な配役を見事に演じ切った結果ということだろう。
そうあらためて考えてみると、奇妙で醜怪で不気味な群像劇である。グロテスクな映像、グロいドラマと感じるほうが健全な反応のようにも思えてくる。逆に言うと、『家族狩り』を普通に楽しめていたら、その状態はちょっとヤバいかもしれない。「ところで、自分、メンタルのほうは大丈夫か?」と、一応、私は自問してみたが……。
書き添えておくと、このドラマにはキラリと光る脇役がほんとうに多い。主人公の母親役の浅田美代子。天然系の元アイドルおばちゃんのイメージが強かったのだけど、こんなにすごい女優だったとは。夫の介護に疲れた妻というだけではなく、初老にさしかかった自分を持て余す女の悲しみを、背中の丸め方ひとつで語っている。
その夫でボケと正気を行ったり来たりしている老人役の演技力にも唸らされる。食事中の米のこぼし方から商店街の徘徊の仕方まで、なんでもかんでも絵にしている。井上真樹夫という知らない俳優だったが、検索してびっくり。なんと『ルパン三世』の石川五ェ門の声の役であった。怪優なり。
元非行少年から更生した電気屋の兄ちゃんもいい。チャラくておバカだが、このドラマの中で唯一、自分をしっかり持っている人間の役だ。周りから浮かずに演じるのは簡単じゃないと思うが、Kis-My-Ft2の北山宏光がいきいきのびのびとやってのけている。ジャニーズは人材の層が厚い。