日本人の魚離れは深刻で、とくに若年層ほどすすんでいる。今年5月、働く母親500名に意識調査したところ、子どもの夕食の主菜に魚料理を用意するのはわずか9.5%だった(ディー・エス・エム社調べ)。健康に良いものを家族に用意したいので魚料理を出したい母親は少なくないはずが、現実は魚から離れている。当然、魚を扱う小売店も厳しい状況にあるが、独自の売場展開で業績を伸ばしているのが首都圏のデパートやスーパーなどに鮮魚小売店を展開する東信水産株式会社だ。
「地域情報誌読者の皆さんとの座談会や、売場にいらっしゃるお客様からの声を分析したところ、魚そのものについてよりも調理時間や方法を求めているとわかりました。魚の良さを訴えるだけでなく、お客様から関心が高い事項の情報を増やした結果、見違えるような効果が出ています」と織茂信尋常務取締役は売場の展開変更による大きな反響を振り返る。
「昔と違って魚料理の技術や知識にバラつきがあるので、お客様の調理技術レベルは様々です。都心型鮮魚店である弊社の場合は料理をされる方とされない方、2つの段階に分かれます。料理が得意でプロ並みの方もいらっしゃる一方、魚をあまり自宅で加工しない、料理をされない後者の方が約80%にのぼります。寿司や刺身、電子レンジ商品などを好まれ、手を加えるとしたら切る、焼く、または食材を一品加えて仕上げをする調味料キットを使用した5~10分程度の調理時間の方が大多数なのです。
これまでは魚の旬や鮮度、漁法や産地など魚そのものについての情報を中心に提供してきましたが、調理技術レベルごとに商品や情報を選べる方向へと売場の考え方を切り替えました。2012年末から調理時間を明記したPOPを大きく掲示し、時間ごとに商品を並べています。この方法は首都圏の店舗で特に反響が大きく、たとえば、渋谷ヒカリエ店で調理時間別に展開したところ、前年対比で統計学上有意な売上上昇を記録しました」
料理をしない人には調理時間が0~5分の刺身や寿司、電子レンジ調理のものを、レシピがあれば魚料理もできるが得意ではない人には5~10分の切身や塩干などを、プロ並みに魚の知識と調理技術がある人向けには25~50分かかるこだわりの商品を選べるようにした。台所の状況や調理器具のそろい方、つまり調理シーンに合わせた商品提供にしたのだ。この変更による売上増は一時的なものに終わらず、右肩上がりを続けている。