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夏目漱石語る臨死体験 危篤状態で「幸福感と恍惚感」感じた

 あまり知られていないが、『吾輩は猫である』で有名な作家の夏目漱石は43才のときに臨死体験をした。後日、漱石はその体験を著書『思い出す事など』に記している。

 当時患っていた胃潰瘍が悪化していた漱石は、入院していた病院を退院して、転地療養のため伊豆の修善寺温泉に出かけた。当時の胃潰瘍は生死にかかわるような大病だった。

 そして明治43年8月24日のこと。夕暮れに800ccもの吐血をした当時43才の漱石は、意識を失って危篤状態におちいった。医師の診察を受けて「さほど悪くない」と言われた1時間後のことだった。驚いた医師は彼を危険な状態から救おうと懸命になるが、30分の間意識不明で生死の境をさまよったのだ。

 漱石は、吐血してから目が覚めるまでの間に2人の医師がドイツ語で「駄目だろう」「ええ」「子供に会わしたらどうだろう」などとやり取りしているのを聞いている。また、漱石はその間ずっと意識明瞭で注射を受けていたと思っていたが、そばに寄り添っていた妻によると「あの時30分ばかりは死んでいらした」のだとか。

 そんな漱石は、臨死体験に一種の幸福感や恍惚感を感じていたようで「心は、己の宿る身体とともに蒲団から浮き上がり、腰と肩と頭に触れる蒲団が、どこかへいってしまったように、心と体がもとの位置に漂っていた」「霊が、細かい神経の末端にまで行きわたって、泥でできた肉体の内部を軽く清くするとともに、官能の実覚から遥かに遠からしめた状態だった」と表現している。

 49才で亡くなった漱石。この体験はその後の執筆活動に大きな影響を与えたようだ。

※女性セブン2014年8月21日・28日号

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