8月27日現在で70人もの死者を出した広島県の土砂崩れ被害。広島県の報告によれば、20日未明の土石流の発生か所は安佐北区で37か所、安佐南区で13か所。他にも、3か所で崖崩れも発生していた。
現場では10トン級の岩石まで流されており、今回の土石流は、瞬間的に時速140km(平均は20~40km)を超えていた可能性も指摘されている。
自衛隊員や警察官、消防隊員ら、約3500人におよぶ救助隊による決死の捜索活動が続くが、今も断続的に豪雨が降り、時折、中断を余儀なくされるため、捜索活動は思うように進んでいない。安佐南区緑井の消防団員がこう語る。
「発見された遺体の多くは、目を覆うような状態のものばかりです…。押し寄せた土砂と大木に、一瞬で潰された人がいる一方で、すぐ隣にいた人が無傷で助かっていたりするんです。あと数m横にズレていれば、あと数秒早く避難していれば…。そう思うと無念でなりません」
被災地で生死を分けた境目は、どこにあったのか。本誌は九死に一生を得た複数の生存者から話を聞いた。
「あまりに雨がすごいんで、玄関に行って外の様子を見たら、家の前がすでに激流になっとるんです。“こりゃ避難は無理だ”と思って、妻と一緒に2階に逃げようと階段を上がり始めた直後に、台所から土砂が家の中に入ってきて、1階がメチャクチャになったんです…。避難があと5秒遅かったら、死んでたかと思うとゾッとしますね」(安佐北区可部・65才男性)
「私は県営住宅の1階に住んでたんだけど、他の住人が、“土砂くるぞ! はよ上の階上がれ!”って叫んでくれたんです。すぐに部屋を出て、階段で3階まで上がってね。そしたらもう、私の部屋の窓を丸太が突き破って、一気に土砂も入ってきてました」(安佐南区八木・ 50才男性)
「うちの前に住んでる90才のおばあちゃんな、1階は土砂で破壊されて、2階部分だけが20mほど坂の下まで流されたんですわ。2階で寝てたみたいで、流されながら“助けて~!”って叫び続けてたって。で、家ごと流されてる途中で他の家にぶつかって止まって、おばあちゃん、2階から脱出して無傷で助かったんです」(安佐南区八木・51才女性)
生存者に共通しているのは、みな「1階にいなかった」ということである。防災都市計画研究所の吉川忠寛所長がこう語る。
「土砂災害の場合、避難場所まで間に合わない、という時は、“垂直避難”といって、とにかく同じ建物内の高い方に逃げるんです。2階、3階と上の階を目指すのが重要です」
そしてもうひとつが、“予兆”を感じていたことだった。
「土砂が来る少し前、アンモニアと土が混ざったような、嫌なにおいがした」(安佐北区可部・41才男性)
「腐った土のようなにおいがしてきた。それから、ゴロゴロっという岩が転がるような音も聞こえた」(安佐南区緑井・34才女性)
この「におい」と「石の音」は、土砂災害時の重要な予兆で、もし山あいの集落に住んでいて、普段嗅いだことのない泥や土のにおい、それに岩の摩擦音が聞こえた場合、即座に避難するべきなのだという。
※女性セブン2014年9月11日号