前出の溝上氏によれば、最近は外部にコーチングを依頼する経費を削減するために、社内で多数のコーチ役を養成して各部門に広げる“内製化”が進んでいるという。だが、コーチングの認識を誤ると、余計に企業風土は乱れていくと懸念する。
「まず、大前提として上司と部下の信頼関係がなければコーチングは何の意味もありません。たとえ二人三脚の指導がうまくいっていると思っても、会社が求める人材やノルマの方向性とズレてくれば、いつの間にか宗教的な自己啓発まがいのスタイルになり、最終的にガンバリズムを強要する結果になりかねません」(溝上氏)
本人の自主性を引き出すどころか、上から押し付けるだけのコーチングに陥りやすいというのである。
「ブラック企業の人材教育でよくあるのが、“全部お前が悪い”と思い込ませる自己責任意識の醸成です。上司はみな正論を吐きますが、言いっ放し、聞きっ放しが蔓延しています。
コーチングは<こうすれば会社の業績が飛躍的にアップする>という金科玉条の手法ではありません。社員に仕事の“やらされ感”を捨てさせ、上昇意欲と目指すべきゴールは何なのかを一緒に導き出す。時間がかかり根気のいる指導法といえます」(溝上氏)
一朝一夕に結果を求めてコーチングを導入する企業があるならば、錦織のようなスターが育つはずもない。