ちなみに本作では釧路名物・ザンギ(鶏の唐揚げ)やイクラの醤油漬けなど、「食」も重要な脇役。完治がひとり台所に立ち、日々の食卓を整える後姿には、罪を生きる男の悲壮な覚悟が滲み、彼の時間が再び動き始める日を願わずにいられない。
「(本田)翼がこれを食って、心から『うまい!』と言わなきゃ意味がない」と、佐藤はザンギのレシピを自ら考案。鶏もも肉を醤油、酒等々に一晩漬け込み、衣は直前にまぶしてカラッと揚げる。
「隠し味はウスターソースね」(佐藤)「なるほど。釧路では砂糖なんですけど、うちでも真似してみます」(桜木)
幸不幸など、誰にも決められない生を描いてきた作家は、ただ映画のためを思う映画人のこうした仕事の一つ一つに胸を詰まらせる。かと思うと、「ねえねえ、監督がスタートっていった後、息を止めているのって私だけ?」「何だかご当地ソングを歌うローカル歌手が、いきなり紅白に出た気分!」等々、飾らないにも程がある、お茶目な直木賞作家の初ロケ訪問だった。
撮影■国府田利光 取材・文■橋本紀子
※週刊ポスト2014年10月3日号