――「時間を無駄にしたくない」とよく語っていますね。
座二郎:サラリーマンとして生きていく以上、残された時間はそんなにないじゃないですか。働いている時間以外は、少しでも表現活動に専念したいんです。なんとか自分の痕跡をこの世に残さなきゃいけないと。無名のまま死んでいくのはいやなんです。有名になって、モテて死んでいきたいんですよ。まあ作家として認められたいということだと思うんです。生存中にNHK『日曜美術館』とかに特集されたいとも、よく言っています(笑い)。
――フルタイムで夜遅くまで働いて漫画を描いて、ストイックですよね。
座二郎:僕にもサボりたい時はあります。電車に乗ってる時に、まとめサイトを見てる方がいいなと思う時だってあるわけです。ですけど、まとめサイトを見ているだけの20年間の通勤生活では後悔するだろうから、描き続けているんです。
――1日の終わりに製作過程をインスタグラムやツイッターでアップする、SNSを表現ツールに使うのも今様ですね。
座二郎:製作途中でも公開したり、考えていることを少しでも表に出すのは、その行為とみんなの反応を原動力にして、サボらないようにするためです。通勤時間を全て捧げることは実際できてないです。ただ、意識しているのは、眠くて寝ちゃう時もあるけど、一分でもいいから進める。少しでも絶対に何かそこに捧げる。それを途切れさせないようにしています。
――反応を作品に反映するということですか?
座二郎:人からリアクションがあると自分のモチベーションに繋がるので、それをスパイラルで回していくためには、早い段階で構想や粗いスケッチでも一回出して、反応がよかったら進めるし、さらに評価がよくなると、もっとやってやろうってなる。きれいに完成しないと出したくないという人はすごく多いですけど、そこの思考は正反対で、粗くても出します。
――粗い段階でオープンにするのは、ためらいませんか?
座二郎:自分の作品を出すことに関して、恥ずかしさのセンサーが、ぶっ壊れているような気がします。完成したきれいなものだけを見せたいとは、僕は一切思わないですから、そういう考えは全然理解できないです。よく、「私なんか絵が下手だから」という人がいるけど、下手な人の絵の方が見たいし、そんなに恥ずかしいことだとは思わないです。出せばいいのになって思うし、みんなが通勤時間を創作時間に使ったらいいのにって真剣に思っています。
【座二郎(ざじろう)】
1974年8月8日生まれ。東京都出身。早稲田大学建築学科卒業。建築会社勤務。通勤電車の中で漫画を描く、サラリーマン漫画家。『ビッグコミックスペリオール』のウェブサイトで『RAPID COMMUTER UNDERGROUND』(地下鉄の座二郎)不定期連載中。同作は第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門受賞。三児の父。