中村嘉葎雄は近年、行定勲や青山真治など、気鋭の監督たちと仕事をすることも多い。
「ああいう所にポッと行くと、新鮮な感じがしていいですね。今までのファッションが取れるから。私は過去にこれといった栄光がないんですよ。だから、馴染んじゃうの。そうやって現場に入ると、監督も『普通の役者』としていろいろと注意してくれる。それがいいんですよ。
これまでの役者論とか、そんなものはいいんです。頭を下げて現場に入る。先輩も後輩もありません。そのドラマの人間であればいいんです。
あらかじめファッションをつけない、ということです。その方が監督もやりやすいと思います。過去の栄光なんか忘れて、いつも新しく入る。過去の栄光を背負っていると、つい威張ってしまって、その威張りが画面に出ちゃうんです。
かつて作家の里見とん(弓へんに享)先生には『芸は普段のまま』と色紙に書いていただいたことがあります。普段、がさつに生活していると、それが芸にも出てしまう。
父(※三代目中村時蔵)からは『上手い役者になろうと思ったらダメだ。いい役者になるんだ』と言われました。いい役者とは、『品のある役者』のことです。『どんな汚い役をやっても、品がなきゃダメだ』と。そのためには、普段が大事なんです。
ですから、仕事を選ぶ基準はありません。こちらに話が来るまでの間に相手は『あいつを出そう』『あいつは良くない』と練っているわけでしょう。だから、選ばれた自分としては、やるべきことをやるだけです」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)ほか。最新刊『時代劇ベスト100』(光文社新書)も発売中。
※週刊ポスト2014年11月21日号