私は大学を出てすぐ大阪のジャーナリストの故・黒田清さんの弟子になった。事務所には黒田さんの人柄を反映して、市井のいろんな人が出入りしていた。そのなかに「昔、クラブのママをしていた」という女性がいた。ママさんは私や先輩たちを「黒田さんのとこの若い子」といって、安い給料の一助とすべく、靴下をバーゲンで買ってきてくれたり、食事をご馳走してくれた。ある日焼肉店から出たとき、いつもと違う低い声のトーンでママさんから諭された。
「あんたがこれから進む道は、カネも権力も無縁の世界や。人の世話になることも多いやろう。そういうときはな、しっかり『ご馳走さまでした』『ありがとうございました』って、言うんやで」
25歳で事務所から独立したとき、頼るべき組織も誇るべき才能も学歴もない私は、ママさんの言いつけを守り、両手を揃えて「ご馳走様でした」「ありがとうございました」と頭を下げ続けた。すると、
「君は若いのに、礼儀はちゃんとしているねえ」
目を細めながらそう言って、可愛がってくれたり、助けてくれる人が大勢できた。だから51歳になった今でも、高校野球の現場で選手の取材の輪から抜けるとき、選手がこちらを見て無くても、その背中に向かって必ず一礼する。ママさんの教えを守り続けたおかげで、今まで食ってこられたという想いが私には強い。
日本テレビとホステスさん、清廉でないのはどっちだ。