かつて、個人の人間力とも言うべきものを支えていた経験則や知識量はもはや頼りにならなくなってきている。どれだけ知識を持っていても、膨大なネット情報には敵わない。あるいは経験から語れる言葉も、さらに経験豊富な人の言葉をネットから見つけてくることができてしまうのだ。
また、孫は「高校からアメリカに留学したい」と言い出した。日本の若者が海外に雄飛すること自体は大賛成だが、私は自身の経験や実際に現地で聞いたことのある情報を踏まえて、その留学に反対する意見を述べた。ところが、それに対して孫はネットから引っ張ってきた現地の最新情報や在校生の生情報などを楯にことごとく切り返してきた。ついに私は反対するのを断念するしかなかった。
今、我々の目の前で起きているのは、そういう不思議な現象なのだ。中学生にテーマを与えて1週間たったら、大人と同じレベルで議論できる。すなわち「年功」が一切通用しない時代になったのである。これは年配者にとっては恐ろしいことだ。しかし、それが現実なのである
※週刊ポスト2014年11月28日号