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「負け越しても逸ノ城だけには負けるな」が関取衆の合言葉に

 9月場所では新入幕で13勝2敗、優勝争いに絡んで話題を独占した逸ノ城だが、関脇に昇進した九州場所は勝ち越しこそしたものの、最後まで調子が上がらなかった。
 
 幕下付け出しデビューからわずか5場所、昭和以降では最速で三役に昇進した逸ノ城の人気は群を抜いていた。九州場所は初日から満員御礼が出たほか、終わってみれば17年ぶりとなる7日間の大入りとなった。
 
「チケットの売れ行きは若貴ブーム以来。場所前に逸ノ城の体調不良が報じられた時には『前売りの払い戻し期間が過ぎるまでは絶対に休場を匂わせるな』とお達しがあったほどです」(協会関係者)
 
 中継の視聴率も昨年を大きく上回り、売店でも逸ノ城の手形サインや豆力士ストラップ、ミニタオルが売れに売れた。
 
「逸ノ城はマスコミへの対応が丁寧で、質問にひとつずつきちんと答えてくれるから記者のウケがいい。他のモンゴル人力士は平気で無視するし、遠藤も負けると下を向いて何もしゃべらないから、自然と記事も逸ノ城に好意的なものになる」(相撲担当記者)
 
 それが他の力士にとっては面白くなかったのか、「関取衆の間では『たとえ負け越しても、逸ノ城にだけは負けるな』が合い言葉になっていた」(同前)という。勝てばスポーツ紙に大きく載るうえ、逸ノ城の取り組みにかけられる懸賞金を考えれば当然のことだろう。対戦相手はなりふりかまわず向かってくる。
 
「逸ノ城が場所前の出稽古に行かなかったのは体調の問題だけでなく、『逸ノ城包囲網』があったから。所属する湊部屋は弱小なので、“米びつ(有望力士)”にケガでもされたら大変なことになる。親方が心配して出稽古に行かせなかったという声まであった」(同前)
 
 先場所で苦汁をなめた力士はなおのこと打倒・逸ノ城に燃えた。
 
 9月場所を新大関として迎えた豪栄道は、場所後に1000人を集めて大々的な昇進パーティを開いたが、肝心の成績は8勝7敗に終わった。左膝痛の影響もあったが、それ以上に評価を落としたのが逸ノ城との一番だった。協会関係者が明かす。
 
「逸ノ城が得意とする左上手を取られて土俵下に投げ飛ばされ、どちらが大関かわからない惨めな負け方だった。取り組み後、本人は『情けないですね』と唇を震わせていた。横綱審議委員会でも『大関昇進が早かったのでは』との声が出たほどで、本人はリベンジに燃えていた」
 
 逸ノ城は4日目に豪栄道と対戦し寄り切りで敗れた。他の力士にも苦しめられ、8勝7敗と勝ち越すのがやっとだった。

※週刊ポスト2014年12月5日号

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