「『刑事物語』を思いついたのは、『金八』の第二シリーズを撮影している時でした。加藤優(直江喜一)が逮捕される時、僕は刑事に突き飛ばされて廊下に惨めに転ぶ。その時に、こんな役は嫌だと思ったんですよ。で、立ち回りをやりたくなりました。
ある時、優の撮影が長くてロケバスの中で待機していたんですが、そこに衣装さんのハンガーがあった。それを回しているうちに『ハンガーで人をぶったたくと面白いだろうなあ』って、何気なく思ったんですよね。
立ち回りも本気でやりました。殴ったり蹴られたりは当然で、使うとバレるから、防護するものを何も使わないでね。『武田さんも殴られてください。それから、痛みに慣れてください』とか言われながら、撮影所で毎日、蹴り合いをしていました。アクションシーンの撮影は最後の方に回して、僕がいつケガしても対応できるようにやりました。
シリーズを経ても殴られ役の人たちは代えませんでした。僕の信念で、彼らと徹底して作っていったんです。それで彼らとコミュニケーションもとれるようになって、段々と早く動けるようになりました」
『刑事物語』のラストは毎回、片山が一人旅立つ映像に吉田拓郎の主題歌「唇をかみしめて」が流れて、感動を誘った。
「拓郎さんには好かれてなかったんですが、必死に頼みました。『どうしても、あなたの声が欲しいんです』と、ですから、出来あがって主題歌を聞いた時はまさに男の本懐でした。
それで、第一作目のラストの別れのシーンで、スタッフが現場にあの歌をかけたんです。もう気持ち良くてね。それが伝統になって、ラストシーンを撮影する時は、いつもあの歌を現場に流すことになりました」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)ほか。最新刊『時代劇ベスト100』(光文社新書)も発売中。
※週刊ポスト2014年12月12日号