「翻訳ものは外国人のお芝居ですが、基本的には日本のお芝居と変わらないと思いますよ。ただ、表現の仕方は少し違うかもしれません。僕は小さい時から満州のハルピンという街に住んでいて、そこにはロシア人が多く住んでいました。ソ連軍の将校たちの靴磨きしたりタバコ売りしたりしていましたから、日本で育った人たちよりも接触があったというのはありますね。
それで、自然と身ぶり手ぶりが連動した表現が身についていった。大陸育ちだから、内地の人よりも少しコスモポリタン的だったのかもしれませんね。
それに音楽が好きだったから、厚い譜面が来てもすぐに音をとることができるんです。あと、動きに関しては踊りが必要になりますが、これはバレリーナ的な踊りではなく、振り付けられたものを役者として表現していく。芝居はあくまで芝居であって、特別に意識してはいけないと思います。でも、それをするための肉体訓練はしておかないといけません。
それは発声も同じです。観客が千人いようが、二階席まで聞こえるような発声ができないと。そのためには技術が必要です。オーケストラを前に地声でやったら、すぐに声帯を潰します。
近年は滑舌の勉強をしている俳優がいなくなったと思います。『とにかく暇があれば出ろ』という風潮ですが、露出が多ければいいというものではありません。一歩前進、二歩後退といいますか、充電する時間が役者には必要なんです。以前はそれを周りも支援していたのですが」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)、『時代劇ベスト100』(光文社新書)ほか。責任編集をつとめた文藝別冊『五社英雄』(河出書房新社)も発売中。
※週刊ポスト2015年2月6日号