ビジネス

トヨタMIRAI車両700万円は採算割れ FCV普及に山積する問題

トヨタは燃料電池車の特許を開放して利益より普及を優先させる

 昨年12月15日、トヨタ自動車が世界に先駆けて発売して話題をさらった燃料電池車(FCV)の「MIRAI(ミライ)」。

 水素と酸素を化学反応させ、発生する電気によってクルマを動かす仕組みは、従来のガソリン車が二酸化炭素を排出するのに対し、「水」しか出ないことから、“究極のエコカー”として、国の後押しを受けながら普及促進が図られている。

 MIRAIは発売後1か月間で予想を上回る約1500台の受注があり、現在は首相官邸ほか官公庁を中心に納車されている。ただ、「一般のユーザーに届くのは来年以降になる」(トヨタ販売店)というから、FCVに対する理解が広まるまでには、しばらく時間がかかりそうだ。

 そこで、当サイトではこれまでFCV普及の妨げとされてきた“3つのハードル”について、自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に現況と今後の展望を聞いてみた。

【車体価格】
 かつてFCVは「1台1億円」といわれていた時代もあったが、日進月歩の技術革新とコスト低減の積み重ねにより、トヨタのMIRAIは723万6000円という車体価格を実現させた。

 国から出る約200万円の補助金を除けば520万円程度で購入でき、決して手の届かないクルマではない。今後、さらに価格は下がってくるのか。

「ガソリン車でいうエンジン部分には高価な白金が使われていますし、高圧水素タンクには炭素繊維の強化プラスチックを用いるなど材料費が相当かかっているため、700万円ではとても採算が取れないレベルです。

 これからFCVの市販車を発売する予定のホンダ(2016年3月)や日産(2017年)も先行するトヨタに対抗して同じぐらいの価格を設定してくるでしょうが、水素の溜め方をはじめ、さらなる技術革新でコストを下げるまでには、まだ10年はかかると思います」(井元氏)

【水素スタンド】
 燃料補給に欠かせない水素スタンド。政府は2015年度中に全国100か所のスタンドを整備する目標を掲げているが、現在稼働しているのは東京・兵庫など4か所のみ。着工を予定しているところも45か所にとどまっている。

 水素はガソリンと違って軽く、体積エネルギー密度が低いために輸送コストがかかる。また、専用スタンドの総工費は1か所で4~5億円と従来のガソリンスタンドの5倍もかかるため、一気に増えるとは考えにくい。

「スタンドの敷地内で水素そのものを製造しようという方式も考えられていますが、たくさんの水素を作り出すのには時間がかかり、とても商用ベースで確立できる段階には至っていません。

 かといって、燃料補給場所が近くになければ普及しないのは当然です。大都市圏でも20km、40分の範囲内で整備されるのが望ましいでしょう」(同前)

 産業ガス大手の太陽日酸や岩谷産業などは機材費やスタンドの土地代などがかからない移動式の水素スタンド開発にも取り組んでいる。FCVユーザーの利便性を高めるインフラ整備こそが普及のカギを握っている。

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン