週刊ポスト増刊『プロ野球&甲子園 甦る伝説』が発売された。発刊を記念して、元ロッテオリオンズのエース・村田兆治氏が「エースの条件」について振り返った。
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野球はメンタルが強く影響するスポーツで、信じられるものは自分しかない。特に投手はそうだ。野手や相手打者のせいにしたい気持ちをグッと抑えて、失敗から学ばなければいけない。
実は私が練習の虫といわれるようになったのも「サヨナラ」が原因だった。南海の門田博光にサヨナラホームランを打たれたのがきっかけだ。完璧と思って投げた内角低めギリギリのスライダーをスタンドに運ばれた。それからスライダーを封印してストレートを磨きに磨いた。負けを素直に受け止めないと成長はないのだ。
もちろん簡単なことではない。サヨナラ負けをするとその日は悔しくて寝られない。そのうえ打たれる球は決まって最高の1球ということが多い。目を瞑っても”最後の1球”が頭に浮かんでくる。次の登板まで不安がつきまとい、そのバッターと対戦すると打たれたシーンが脳裏に甦ってくる。だが、その恐怖を乗り越えないと一流ピッチャーにはなれない。
私は打たれたコースと同じ球で勝負した。そこで打たれたらまた同じ球で勝負する。それでしか克服できないと思った。今のようなデータ野球では同じ球を投げさせない。だから大エースが誕生しないのではないかと思う。大投手と呼ばれる人はそうやって相手をねじ伏せてきたものだ。
たった1球の失投でゲームが決まるが、それがプロ野球の醍醐味である。だから「野球は筋書きのないドラマ」と言われるのだと思う。
※週刊ポスト2015年3月6日号