厳格派の動脈硬化学会のガイドラインをもとにした健康診断基準ではLDLコレステロール120mg/dl以上を保健指導の対象としている。総コレステロールは学会で正式な基準値としては採用されなくなったが、多くの健診ではかつての基準に則り200mg/dl以上を指導対象としている。
一方で疾患の予防にも治療にも数値目標は必要ないという米学会の最新見解と同じ立場をとるのが、疫学者や薬学者、栄養学者などで構成される日本脂質栄養学会だ。
「長寿のためのコレステロールガイドライン(2010年版)」を策定し、「コレステロール値が高い群ほど癌や脳卒中、全死因による死亡率が低い」ことから、むしろ「高コレステロール値は長寿の指標」であり、「コレステロール低下医療は不適切」と主張。動脈硬化学会と真っ向から対立してきた。
果たして、日本人の本当の「コレステロール基準値」はどれくらいなのか。
東海大学名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所長らのグループは、全国の健診実施機関から集めた約70万人の結果を解析し、健康な人の健診数値を導き出し、2004年の日本総合健診医学会で発表。LDLコレステロールの基準範囲を示した。
30代前半の男性で170mg/dlまでが「健康」で、加齢とともに上限は高くなり、60代前半の男性で183mg/dlまでが基準範囲と示された。総コレステロールについてはそれぞれ250mg/dl、267mg/dlだった。
専門医の学会には黙殺されたが、昨年「血圧147は健康」で話題となった人間ドック学会の150万人のデータに基づく新基準範囲でも、男性は総コレステロールでは254mg/dlまでは健康とされ、異なる調査による数値の見事なまでの一致が脚光を浴びた。
つまりアメリカでの基準見直しの動きと合わせて考えて「総コレステロールは250mg/dlでも健康」が、現状最も根拠ある数値といえそうである。
※週刊ポスト2015年3月13日号