国内

日本人は「戦争とは何か」知らぬまま戦争に向かおうとしてる

 過激派組織「イスラム国」による日本人殺害を受けて、安倍晋三首相が表明した「罪を償わせる」という言葉は、米ニューヨーク・タイムズが「異例な発言」、英BBCも「尋常ではないほど強い言葉」と驚くほどの表現だった。にもかかわらず、日本国内では好意的に受け取る人が多かった。実際にこの人質事件後、各社の世論調査では安倍政権の支持率が軒並み上がっている。

「罪を償わせる」という表現は、事務方がつくった声明に安倍首相自ら付け加えたものだという(日経新聞2月2日付)。もちろんその具体的な方法は当面、「対イスラム国陣営」への人道支援や後方支援となるわけだが、国際社会において、この発言が「軍事的報復」を連想させるのは間違いない。

 そうした政権の空気を、メディアも後押しする。朝日新聞までが社説で〈人命をここまで残忍に扱う犯罪集団を許す余地はない〉〈組織に対する包囲網強化に動かねばならない〉(2月5日付)と勇ましく書き綴るなど、一様に強硬論が目立つ。なかでも感情を露わにしていたのが産経新聞の1面コラム「産経抄」(2月7日付)だった。

〈仇をとってやらねばならぬ、というのは人間として当たり前の話である。第一、「日本にとっての悪夢の始まりだ」と脅すならず者集団を放っておけば、第二、第三の後藤さんが明日にも出てこよう〉

 文章は、〈命の危険にさらされた日本人を救えないような憲法なんて、もういらない〉と結ばれている。まるで、報復のための武力行使を煽っているかのようだ。

 NHKの世論調査で、自衛隊の海外における日本人の救出活動の在り方について、「武器を使って救出活動を行えるようにしたほうがよいと思うか」という質問に、「したほうがよい」が25%にも上った。依然として反対が33%いるとは言え、国民の4分の1が自衛隊の海外における武力行使に賛成しているのである。

 この国はいま、大きな転換点を迎えようとしている。本誌はこれまで、国防の重要性、それに伴う憲法改正論議の必要性を訴えてきた。だからこそ、あえて問いたい。私たちは、「戦争とは何か」をまるで知らないまま、そして知らぬが故に、戦争に向かおうとしているのではないか、と。

※SAPIO2015年4月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
山田久志氏は長嶋茂雄さんを「ピンチでは絶対に対峙したくない打者でした」と振り返る(時事通信フォト)
《追悼・長嶋茂雄さん》日本シリーズで激闘を演じた山田久志氏が今も忘れられない、ミスターが放った「執念のヒット」を回顧
週刊ポスト
“令和の小泉劇場”が始まった
小泉進次郎農相、父・純一郎氏の郵政民営化を彷彿とさせる手腕 農水族や農協という抵抗勢力と対立しながら国民にアピール、石破内閣のコメ無策を批判していた野党を蚊帳の外に
週刊ポスト
緻密な計画で爆弾を郵送、
《結婚から5日後の惨劇》元校長が“結婚祝い”に爆弾を郵送し新郎が死亡 仰天の動機は「校長の座を奪われたことへの恨み」 インドで起きた凶悪事件で判決
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
「最後のインタビュー」に応じた西内まりや(時事通信)
【独占インタビュー】西内まりや(31)が語った“電撃引退の理由”と“事務所退所の真相”「この仕事をしてきてよかったと、最後に思えました」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン