自称「イスラム国」による日本人人質殺害事件(湯川遥菜氏・後藤健二氏)の検証において、語られていない側面がある。それは、アメリカの関与だ。アメリカはどれだけ日本人人質の救出活動を支援したのか、あるいはしなかったのか。元外務省国際情報局長で駐イラン大使も務めた孫崎享氏が分析する。
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イスラム国の日本人人質殺害予告以降のアメリカの態度は、実は最初から明確だった。
米国務省のサキ報道官は予告直後の1月22日の記者会見で、身代金の支払いを拒否する米政府の姿勢を強調した。そして、それを「日本側へ非公式に伝達している」とも述べている。日本政府に非公式に“圧力”をかけたと、公式の記者会見で認めたのである。
湯川氏が殺害され、後藤氏の解放条件がサジダ死刑囚との身柄交換に変更されたあとの1月28日の会見でも、同報道官は
「『テロリストと妥協するべきではない』という我々のよく知られた方針は、日本側にも公の場所で長年にわたり繰り返し伝えているし、今回のケースについても同様だ」
として、人質交換にも応じるべきでないという考えを強調した。要するにアメリカは、日本に「交渉はするな」と公の場で言っていたのである。
このようなアメリカの圧力のなか、安倍首相は1月25日のテレビ番組で、「あらゆる手段をつくして解放に全力をあげている」とアピールした。
だが、安倍政権が交渉に真剣に取り組んでいたようには、とても見えない。政権の最高幹部二人の言葉がそれを物語っている。
麻生太郎副総理は、1月23日の会見で「(テロに)屈する予定がない」と、身代金を払うつもりはないと明言した。さらに、菅義偉官房長官に至っては、二人が殺害されたあとの2月2日の会見で、政府としては身代金を用意せず、イスラム国側と交渉するつもりはなかったと述べている。
人質の救出を願っていた国民を愚弄するような発言で、彼らは国内ではなく、アメリカに向かって、「言いつけを守りました」とアピールしているのだ。ろくに交渉などしていなかったのは明らかだろう。
1999年にキルギスで起きたアルカイダ系組織による日本人技師人質事件では、当時、官房副長官だった鈴木宗男氏が300万ドル(約3億3000万円)を支出したと証言している。1977年の日本赤軍によるダッカ事件でも、日本政府は600万ドルの身代金と活動家の釈放要求に応じた。
こういった過去の事件と比べると、安倍政権の対応はあまりに冷淡ではないか。
※SAPIO2015年4月号