国内

短命の鳩山内閣 日本の経済主権を握る米国の虎の尾を踏んだ

 安倍晋三首相は2月18日の参議院本会議で、TPP(環太平洋経済連携協定)日米交渉の早期妥結に意欲を見せた。

 しかし、過去の例を見ると貿易の交渉が、様々な余波を両国にもたらすことがある。ジャーナリスト・武冨薫氏が日米交渉の闇を抉る。

 * * *
 日米貿易摩擦は、日本の高度経済成長による対米輸出の急増から米国の国内産業を守る保護政策として始まり、繊維、鉄鋼、電機、自動車など分野別に交渉が行なわれてきた。

 1980年代後半以降、米国は日本に円高を迫ることで全輸入品に事実上の「高関税」を課すのと同じ効果をあげ、次に米国の産品を日本市場に売り込むための市場開放要求に転換。

「日米構造協議」(1989~1990年)、「日米包括経済協議」(1993年)で日本の商慣習や経済社会構造の米国標準化を迫り、日本の「経済主権」をコントロールしようとしてきた。

 その象徴が、1994年から日米両政府の間で交わされてきた「年次改革要望書」だ。

 表向きは「日米両国の経済発展」に向け、相手国の規制や制度の問題点を指摘、改善を求めるために交わされる文書とされているが、実態は米国が一方的に日本に突きつける「対日経済要求」に過ぎない。

 米国は毎年「日米規制改革委員会」という二国間協議で日本に要望書を突きつけ、小泉政権時代は300兆円の資金量を誇る郵政民営化のほか、医療分野(混合診療解禁や医薬品の早期認可など)、電力、農業、労働分野の自由化などを要求。

 小泉政権は「構造改革」の名の下に、米国の要求通りの経済改革を段階的に推進した。

 民主党・鳩山政権は2010年にこの年次改革要望書を廃止したものの、次の菅首相はオバマ大統領との首脳会談で、新たに「日米経済調和対話」という二国間協議の枠組みを作ることで合意。

 米国は新協議で「米国側関心事項」という対日要求項目文書を発表し、年次改革要望書はわずか1年で名前を変えて復活した。

 鳩山内閣が1年で倒れたのは、沖縄米軍基地移転問題の行き詰まりだけではなく、年次改革要望書の廃止により「日本の経済主権」を握る米国の虎の尾を踏んだという側面があることも見落としてはならない。

※SAPIO2015年4月号

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