ライフ

暗闇の中の対話「初対面でも急速に仲間意識が芽生えた」体験

 全くの暗闇を体験してみませんか。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(Dialog in the Dark、暗闇の中の対話)というイベントが注目を集めている。体験すれば感性が高まり、人の世の多様性を感じることができるという。本当なのか、コラムニストのオバタカズユキ氏が体験してみた。

 * * *
 人間が外界から得る情報の8割は視覚情報だといわれている。その視覚が突然まったく使えなくなったら、いったい自分はどうなるだろう――。

 先日発行された志村真介著『暗闇から世界が変わる』(講談社現代新書)は、一筋の光もない暗闇の中で行われる「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(Dialog in the Dark、暗闇の中の対話。以下、DID)というイベントを、本場ドイツから持ち込み、日本流にアレンジし、東京と大阪の2会場での常設化にまで漕ぎつけた著者の奮戦記だ。

 なにげに読んでみたら、これが相当おもしろかった。私とほぼ同年代の志村氏が、社会的地位もやりがいも給料も良かった勤めを辞めて、なぜ社会起業家として悪戦苦闘の道を歩むようになったのか。彼の半生がぶっちゃけられていて興味深い。でも、より惹かれたのは、彼をそこまでとりこにしたイベント自体だ。DIDについて本にこうある。

〈イベントに参加するのは、一つのユニット(グループ)につき八人のみです。一つのユニットには一人ずつアテンド(案内人)がつき、真っ暗闇の中を歩き回って、さまざまな体験をします〉

 アテンドを担うのは視覚障害者。〈いわば暗闇のエキスパートである彼らにサポートをしてもらいながら、暗闇の中でさまざまなシーンを体験する〉。 彼らの案内で視覚を使わないワークショップのようなことをするため、〈ともすればDIDは、「目が見えないかわいそうな人たちの状態を疑似体験するもの」と思われがち〉だという。

〈しかし、これはDIDの機能のごくごく一部に過ぎません。用意している暗闇は、どんな立場やどんな役割の人でもフラットになれる場所です。そこでは視覚以外の感覚を磨くことも感性を高めることもできるし、共に行動する人たちを助けたり、逆に助けられたりする中で、楽しみながら相手のことを本当の意味で知ることもできます。DIDの暗闇は、お互いの多様性を認め合っていくことができる「対等な自由の場」なのです〉

 けっこうすごい効用が書かれている。なるほど、誰でもフラットになれ、感性が高まり、人の世の多様性が認められたら、それはすばらしい体験だろう。けれど、ちょっと自己啓発っぽくもある。暗闇体験ぐらいで人はそんなに容易く“いい人”になれるものか。やや眉唾だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
麻辣湯を中心とした中国発の飲食チェーン『楊國福』で撮影された動画が物議を醸している(HP/Instagramより)
〈まさかスープに入れてないよね、、、〉人気の麻辣湯店『楊國福』で「厨房の床で牛骨叩き割り」動画が拡散、店舗オーナーが語った実情「当日、料理長がいなくて」
NEWSポストセブン
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
50歳で「アンパンマン」を描き始めたやなせたかし氏(時事通信フォト)
《巨大なアンパンマン経済圏》累計市場規模は約6.6兆円…! スパイダーマンやバットマンより稼ぎ出す背景に「ミュージアム」の存在
NEWSポストセブン
保護者を裏切った森山勇二容疑者
盗撮逮捕教師“リーダー格”森山勇二容疑者在籍の小学校は名古屋市内で有数の「性教育推進校」だった 外部の団体に委託して『思春期セミナー』を開催
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
NEWSポストセブン