女優・夏目雅子さんが急逝してから、今年で30年を迎える。
「夏目雅子は旋風児でした」
そう話すのは27歳だった彼女の遺作となる舞台『愚かな女』で共演した俳優の西岡徳馬だ。
「みんな“ひまわり”のような人だったっていうけど、僕から見たら男の人の形容に使う旋風児。彼女の存在そのものがさ~っと風を起こすんです」
こんなエピソードがある。稽古場からタクシーに乗った彼女は窓を開けると“ハコ乗り”の体勢で、「明日ね、さようなら。また明日ね」と西岡らの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「こんな女優いないですよ(笑い)。みんなが雅子ちゃんの勢いに巻き込まれていました」
人を魅了したのは天衣無縫の明るさだけではない。女優という仕事に鬼気迫るほどの執念を見せ共演者らを圧倒した。
「舞台が終わると毎日ですよ。『もっとダメなところをいってちょうだい』って反省会です。すでに『鬼龍院花子の生涯』で賞をとって女優としての演技力も認められている。それでも、もっともっという向上心が常にあった」
人にも仕事にも全力でぶつかった生涯。日本の歴史にいつまでも残る「美しい人」である。
※週刊ポスト2015年5月8・15日号