国内

「最強の官房長官」評もある菅義偉氏 基地問題では立ち往生

 長期安定政権を築く安倍内閣において、菅義偉官房長官こそが絶対的な要であると誰もが認める。しかしその彼がいま、沖縄基地問題において初めて矢面に立たされている。ノンフィクション作家の森功氏が迫る。

 * * *
 それは菅義偉にとって、想定外の一撃だったかもしれない。四月五日九時四十分、那覇市のANAクラウンプラザホテル沖縄ハーバービューで対峙した翁長雄志(沖縄県知事)に菅は、反発を覚悟で話し合いの口火を切った。
 
「日米同盟の抑止力の維持と、そして危険除去、こうしたことを考えたときにですね、辺野古移設というのは、唯一の解決策であるというふうに、政府は考えてます」
 
 米普天間基地の辺野古移設は、政府として譲れないという意志を表した。案の定、翁長はすぐさま反論した。
 
「辺野古の新基地は、絶対に建設することはできないという確信を持っております」
 
 あくまで話し合いは平行線をたどった。そこまでは菅にとっても、予想できた反応だったに違いない。菅はいつものようなポーカーフェースで余計な言葉を極力ひかえ、ただ政府の姿勢を伝えることに専念しているかのようにも見えた。翁長も興奮する様子はない。そして、タイミングを見計らい、話題を切り替えた。
 
「官房長官が、『粛々』という言葉を何回も使われるんですよね。僕からすると、『問答無用』という姿勢が、上から目線のように感じられ……」
 
 翁長にしてみたら、メディア受けするよう計算ずくで使った言葉だったに違いない。菅の態度が、かつて米軍統治下の沖縄で圧政を敷いたキャラウェイ高等弁務官の姿と重なる、とまで批難した。その計算通り、「粛々」という言葉がクローズアップされ、まるで権力を振り回す横暴なイメージを残した。
 
 翁長との会談の席上、むろん菅は沖縄に対する気遣いも見せた。米海兵隊の垂直離着陸輸送機「MV22オスプレイ」訓練の県外移転に加え、米国の映画テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)が沖縄にやって来るよう協力するとまで言った。しかし、それも翁長には、まったく通じなかった。
 
 菅義偉は、二〇一二年十二月の安倍晋三政権発足以降、霞が関の官僚や産業界に睨みをきかせ、官邸を差配してきた。「影の総理」とまで呼ばれる。歴代の自民党内閣のなかで、最強の官房長官と絶賛する声もある。だが、その菅でさえ、沖縄の基地問題では立ち往生している。

※SAPIO2015年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

山田和利・裕貴父子
山田裕貴の父、元中日・山田和利さんが死去 元同僚が明かす「息子のことを周囲に自慢して回らなかった理由」 口数が少なく「真面目で群れない人だった」の人物評
NEWSポストセブン
国内未承認の危険ドラッグ「エトミデート」が沖縄で蔓延している(時事通信フォト/TikTokより)
《沖縄で広がる“ゾンビタバコ”》「うつろな目、手足は痙攣し、奇声を上げ…」指定薬物「エトミデート」が若者に蔓延する深刻な実態「バイ(売買)の話が不良連中に回っていた」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
【美しい!と称賛】佳子さま “3着目のドットワンピ”に絶賛の声 モード誌スタイリストが解説「セブンティーズな着こなしで、万博と皇室の“歴史”を表現されたのでは」
NEWSポストセブン
8月27日早朝、谷本将志容疑者の居室で家宅捜索が行われた(右:共同通信)
《4畳半の居室に“2柱の位牌”》「300万円の自己破産を手伝った」谷本将司容疑者の勤務先社長が明かしていた“不可解な素顔”「飲みに行っても1次会で帰るタイプ」
NEWSポストセブン
騒動から2ヶ月が経ったが…(時事通信フォト)
《正直、ショックだよ》国分太一のコンプラ違反でTOKIO解散に長瀬智也が漏らしていたリアルな“本音”
NEWSポストセブン
ロシアで勾留中に死亡したウクライナ人フリージャーナリスト、ビクトリア・ロシチナさん(Facebook /時事通信フォト)
脳、眼球、咽頭が摘出、体重は20キロ台…“激しい拷問”受けたウクライナ人女性記者の葬儀を覆った“深い悲しみと怒り”「大行列ができ軍人が『ビクトリアに栄光あれ!』と…」
NEWSポストセブン
谷本容疑者(35)の地元を取材すると、ある暗い過去があることがわかった(共同通信)
「小学生時代は不登校気味」「1人でエアガンをバンバン撃っていた」“異常な思考”はいつ芽生えたのか…谷本将志容疑者の少年時代とは【神戸市・24歳女性刺殺】
NEWSポストセブン
大谷の「二刀流登板日」に私服で観戦した真美子さん(共同通信)
「私服姿の真美子さんが駆けつけて…」大谷翔平が妻を招いた「二刀流登板日」、インタビューに「今がキャリアの頂上」と語った“覚悟と焦燥”
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚を発表した(左・Instagramより)
《お腹にそっと手を当てて》ひとり娘の趣里は区役所を訪れ…背中を押す水谷豊・伊藤蘭、育んできた3人家族の「絆」
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
《前科は懲役2年6か月執行猶予5年》「ストーカーだけでなく盗撮も…」「5回オートロックすり抜け」公判でも“相当悪質”と指摘された谷本将志容疑者の“首締め告白事件”の内幕
NEWSポストセブン
硬式野球部監督の退任が発表された広陵高校・中井哲之氏
【広陵野球部・暴力問題で被害者父が告白】中井監督の退任後も「学校から連絡なし」…ほとぼり冷めたら復帰する可能性も 学校側は「警察の捜査に誠実に対応中」と回答
NEWSポストセブン
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
NEWSポストセブン